がん化学療法時の抜歯ガイドライン

抗がん剤開始前に歯科に受診していただき、ムシ歯や歯周病の治療を行っておくことが本来大切です。歯周病の治療を終了させた後に化学療法を行うことが好ましいとされていますが、果たして歯周病の治療に終了があるかどうかは甚だ疑問なところです。歯周病の大きな原因である歯周ポケットは、どのような歯周病治療を行っても完全になくすことはできません。このため、ある程度進行した歯周病に関しては、一定の治療が終了した後もSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)という歯周病病状の安定を維持するための歯科医療従事者によるプラークコントロール、スケーリング、ルートプレーニング、咬合調整などの治療を主体とした定期的な予防治療が必要になります。

がん薬物療法開始前に歯周病治療を終了させておくという考え方は明らかに誤りです。

がん化学療法中の患者さんの免疫系は著しくバランスを崩しており、口腔領域のトラブル・ひいては歯性病巣感染などによる全身的な障害に注意深く配慮しなければいけません。ですので、歯科治療を終了ということを考えずに抗がん剤治療中も、継続的に歯周病の管理を続けるように勧めて頂ければ助かります。

口腔内細菌は、時間の経過と共に大きく変化していきます

歯石除去をはじめとする、歯周病に対して充分な治療を行った直後でも、歯面を中心に細菌が繁殖しはじめます。腸内フローラと同じように、口腔内でも細菌叢が形成され(口腔内フローラ)ます。プロ(歯科医師など)による徹底した清掃後は、毒性のほとんどないグラム陽性細菌による歯垢が再形成されます。細菌数も日常より低いレベルで制御できています。しかし、時間経過と共に毒性の強いエンドトキシンを保有するグラム陰性嫌気性菌が増加していきます。歯科ではこれらの菌をレッドコンプレックスと呼んでいますが、特に質の悪いとされる菌は

・Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)
・Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコラ)
・Tannerella forsythensis(タネレラ・フォーサイセンシス)

化学療法中に歯科医師に伝えていただきたい内容

● 抗がん剤治療の内容・スケジュール
● 今までの治療における骨髄抑制期の白血球数・血小板数
● 抗菌剤や消炎鎮痛剤の投与の可否

がん化学療法時の抜歯ガイドライン

1 上顎は、少なくとも、化学療法開始 5日前
下顎は、少なくとも、化学療法開始 7日前
2 必要最小限の侵襲にとどめるように注意する
3 抜歯創部の鋭縁な歯槽骨はトリミングし、傷は一時閉鎖をすること。
4 抜歯後の創部被覆材は、細菌の格好な培地となってしまうため、使用しないようにお願いする。
5 血小板5万/μl 以下では輸血が必要。
6 白血球数2000/μl(好中球数1000/μl)以下、もしくは10日以内にこれと同じレベルまで下がる危険があれば,抜歯を延期してもらう。
7 一般開業医での抜歯を行わず、歯科大学病院など全身管理の可能なところで行ってもらう。

歯科における観血処置は、白血球数2000/μl、血小板数4~5万/μl 以上が隠されている事が条件になります。そのためがん化学療法が繰り返し行われている場合、次回治療開始2~3日前が、最も血液状態と全身状態が安定した時になります。この時が抜歯のタイミングです。

化学療法薬による白血球数の変化

一見、非観血的処置と考えられる歯石除去なども、意外な事に観血的な面が大きいです。歯周ポケット内部から血液中に口腔内細菌が侵入している事は過去のデータから明らかで、歯科医師も注意深く行っておりますが、抗がん剤治療による骨髄抑制は、個人差が大きく、治療法・薬剤投与量など様々な因子で変化します。がん化学療法で、全身の有害事象などが現れたりした場合、担当している歯科医にご連絡頂ければ幸いです。

非観血的歯科処置

直前で述べたように、ほとんどの歯科処置は観血処置と考えていただいた方が安心です。ただ、抜歯などに比べれば安全性は高く、基本的に白血球数や血小板数に関係なく行うことができると考えています。しかし、治療後の全身的な有害事象が強く出る時期は避けることが当然望ましく、完結処置同様、がん化学療法直前の処置が望ましいとされます。
患者さん本人が治療予定を充分把握していないことも多く、直接お知らせ頂ければ幸いです。