ワルファリンと抜歯

歯科における通常の抜歯時は、ワルファリンを中断しない

以前はワルファリン服用患者においてはワルファリン投与を数日間中断し、血液凝固能を回復させてから抜歯をすることが常識でした。

現在ではワルファリン継続下で抜歯が行われるようになりました。

根拠となる論文

Wahlの論文(1998年)

抜歯のためにワルファリンを中断した493名542症例の抜歯により、血栓・塞栓症を発症したのは5例(0.95%)で、そのうち4例が死亡しています。
※ ただ2010年のガイドラインではシステマティックレビューに準じてエビデンスレベルⅠと評価されていましたが、症例報告を集め、個人の考えを述べたいわゆる総論文集と考えエビデンスレベルをⅣに変更されています。

コホート研究(2008年)

外来小手術(直腸鏡、歯科手術)時2ワルファリンを中断するのみの症例と、ヘパリンのブリッジングを行った症例で重篤な出血性合併症と血栓・塞栓性合併症の比較検討を行っています。ワルファリン中断後30日間観察を行ったところ、ワルファリンの中断で1,024例中7例(0.7%)に血栓・塞栓症が発症しました。重篤な出血性合併症はヘパリンによるブリッジングを行った4症例、行わなかった症例2症例に認められたと記述されていますが、天気についての記載はありません。

1985年の安藤らによるレポートでは(Bull Tokyo Dent Coil)

ワルファリン中断あるいは減量で抜歯を行った場合128症例中1症例に脳梗塞による死亡例が報告されています。(エビデンスレベルⅣ b)
このため、症例グレードA(強い科学的根拠があり行うように強く勧められる)

ワルファリンを抜歯のために中断した場合約1%の患者において重篤な血栓塞栓症が発症し、不幸にして死の転帰を取る場合が報告されている。血栓塞栓症が発症した場合には、医科により緊急的な血栓溶解療法と共に血栓塞栓症を発症臓器の障害に対する治療が行わるべきとされています。

PTーINRが、3.0以下であればワーファリンを継続下で抜歯可能

欧米の論文では PT-INR が4.0(論文によっては3.5)まだであれば普通場所が可能であるとされています。また、日本人を対象にした観察研究の結果からでは、PT-INR が3.0以下であればワルファリン継続下で抜歯行っても重度の後出血を含む重篤な出血性合併症は生じないと考えられています。ただし、智歯埋伏歯や骨削除を伴う難抜歯に関しては、エビデンスの高い論文がないので慎重に対応することが必要とされています。

根拠となる論文

欧米の論文ではワルファリン継続下での抜歯に関する論文が多数掲載されています。

Evansら

PT-INR が4.1以下であればワルファリン継続下での出し可能としています。
EvansIL,SayersMS,GibbonsAJ,PriceG,SnooksH,SugarAW.Can warfarinbe continued dyring debtal extradion? Results of a randomized controlled trial.Brjoral1 Maxillofac Surg 2002

Al-Mubarak

PT-INR が3.0までならワルファリン継続で抜歯可能としています。
Al-Mubarak S,Ak-Alu B,Rass MA Al-Sohail A,Robert A,Al-Zoman K,et al.Evaluation of anticoagulate therapy.Br DEnt J 2007

2007年英国のガイドライン

2007年英国のガイドラインでは PT-INR値が2.0から4.0後領域に安定していれば重篤な出血を起こすリスクは非常に小さく、逆に中断すると血栓症のリスクが高くなるため、抜歯時に経口抗凝固薬を中断すべきではないとなっています。

日本循環器学会のガイドライン

至適治療域に PT-INR をコントロールした上でのワルファリン内服継続下での抜歯を推奨しています。同ガイドラインによるとワルファリン療法の推奨治療域はPT-INR値が2.0~3.0であるとされています。

PT-INR値が3を越える場合は

PT-INR が3を越えたり、埋伏歯抜歯など難抜歯が予測される場合は

より慎重な出血管理が必要なため

、抜歯は専門医療機関(歯科大学病院等)で行うことが望ましいと考えられます。

PT-INR の測定はいつ

24時間以内、少なくとも72時間前の PT-INR 値を参考に抜歯を行うこととされています。可能ならば抜歯当日の測定が望ましいです。
ワルファリンは患者個々の代謝能力やビタミン K 濃度による影響が大きく食事により変化しやすい値です。このため定期的な PT-INR の測定が行われているのは当然です。歯科外科処置の場合は、24時間、もしくは48時間以内の測定値を参考にするという専門家の意見が多くありますが、英国のガイドラインでは抗凝固療法が安定している患者では72時間前で可能ではないかと考えられています。
 ただ、一般の歯科開業医ではコアグチェックなどの測定機器が常駐されていないところが多く、医科医療機関の協力が必須のものとなっています。

術後の後出血に注意

健康な比較的若い患者さんであれば、通常の抜歯処置であれば7~8分で止血します。当然ワルファリンを継続して抜歯を行う場合には、止血時間の延長が考えられます。
ワルファリン継続下の抜歯では、ワルファリン非服用患者よりも長め、できれば30分程度が前にて圧迫止血することが進められます。
 通常の抜歯では、太い血管の損傷は考えにくく、少量ですが、長時間持続する湧出性の出血はできれば避けたいものです。このため、積極的な止血処置を行うべきで、抜歯部の縫合処置や、止血シーネの製作が必要な場合も考えられます。
また、ワルファリン継続下での抜歯は、抜歯後7日目ぐらいまでは術後出血があることに注意し、患者さんにも充分説明するとともに、充分な経過観察を行う必要があります。

抜歯後の鎮痛薬は

抜歯後のNSAIDsやCOX2阻害薬の投与は原則的に行うべきではない。やむを得ず投与する場合には、慎重に行うことが必要である。

歯科領域では、抜歯以外にもNSAIDsやCOX2阻害薬を使用する場合は多いです。

NSAIDs 出血性合併症が増加 エビデンスレベルⅣ b
アセトアミノフェン PT-INR値の上昇 エビデンスレベルⅣ b
COX2阻害薬 NSAIDsと同程度の出血リスク エビデンスレベルⅣ b

NSAIDsはTAX2の生成を抑制し高血小板作用を発揮します。また、NSAIDsのうち、アスピリン・イブプロフェン・ナプロキサン及びCOX2阻害薬のセレコキシブは血漿タンパク質と結合するため、、ワルファリンの血漿タンパク質への結合率が低下し、遊離型のワルファリンが増えるためワルファリンの作用が増強すると考えられています。

アセトアミノフェンはCOX1・COX2の阻害作用が少なく、抗血小板作用も少ないことから、比較的安全に使用可能であると考えられています

しかし、ランダム化比較試験でワルファリン服用患者において、アセトアミノフェン4g/日を14日間投与すると PT-INR っちが上昇するという報告もあり、以前はアセトアミノフェンの位置に最大投与量は1.5g だったのに対し、現在は4g となっており、アセトアミノフェンを大量に投与する場合は注意が必要と考えられています。このため長期間投与する場合は定期的に PT-INR を測定し、出血性合併症の発生に注意をしつつ必要最小限の量を投与するのが安全と考えます。
しかしアセトアミノフェン以外はエビデンスが非常に少なく、今後の研究に期待したいところです。

ワルファリン服用患者に対する抗生物質の使用は

歯科医院では、抜歯にあたり術後のみならず術前から抗菌剤を投与するケースが多くあります。
特に抗血栓療法患者においては、歯科領域からの感染性心内膜炎が心配され、また抜歯以外でも歯科治療で抗菌剤を長期間投与する必要性のある場合もあります。
ワルファリンと抗菌剤には、ご存知のように相互作用があるため、投与後の PT-INR 値の変化や出血性合併症の発生要望に対し、万全の注意が必要です。

ワルファリンと抗菌薬の相互作用

相互作用 PT-INRへの影響 管理
狭域ペニシリン系 経口薬で報告なし 不明 経口薬で特になし
広域ペニシリン系 可能性あり 上昇 PT-INRモニタリング
エリスロマイシン 報告あり 上昇 可能であれば避ける
メトロニダゾール 報告あり 高度上昇 避ける
テトラサイクリン 可能性あり 上昇 PT-INRモニタ
セファロスポリン系 可能性あり 上昇 PT-INRモニタ
アミノグルコシド系 経口薬で報告少ない 上昇 経口薬で特になし

Rice PJ Antibacterial prescribing and warfarin a review Br Dent 2003より引用

英国歯科医師会のガイドラインによれば、ワルファリン服用患者における抗菌薬投与の影響に対しては、通常の歯科治療で1回のみの抗菌薬の予防投与であれば、凝固能に変化は見られないが、抗菌薬のて期間以上の長期投与では、腸内細菌の変化などによりビタミン K生成が抑制され、出血傾向が生じる可能性があると記載されています。また、口腔内の外科処置ですので、食事の摂取がうまくいかずビタミン K の摂取量が減少することも考えられるので、対応としては定期的に PT-INR を測定し、ワルファリン量を調節することが必要です。

抜歯におけるヘパリンによるブリッジングは

抗血栓療法患者の抜歯は、ワルファリンや抗血小板薬の一両を継続して行うことが推奨され、ワルファリンや抗血小板薬を中断し、ヘパリンに変換する必要はない。

抗凝固療法を中断すると血栓や梗塞のリスクが高くなります。ワルファリン中断により1%に血栓症が生じ、発症例では重症化し死亡率も高いです。
このため発症予防にヘパリンによるブリッジングは有効であると報告されています。特に大手術に対しては適用されています。
しかしワルファリン投与患者の小手術中に変換して行った症例の報告によると、血栓や梗塞症の発症はないが、重篤な出血(頭蓋内出血、口腔出血)の報告もあり、その適用には危険性と有効性を考慮する必要があるとされます。
このため抜歯においては出っ張りによるブリッジングの必要性はないとされています。
出典 Bkiiner CR Excessive hemorrhage after dental extractions using low-moleculara-weight heparin anticoagulation therapy.J Oral Maxillofac Surg.2004
抜歯に際してワルファリン継続群とワルファリンを中断し、ヘパリンによるブリッチング行った群のランダム化比較試験では、両群に術後止血や血栓梗塞症の発生について明らかな差はなく、抜歯においては、ヘパリンによるブリッチングの必要性はないとされています。
出典 Bajkin BV. Popovic SL,Selakovic SDC.Randomized prospetive trial comparing bridging therapy using low-moleular-weight heparin with maintenance of oral anticoagulation during extraction of teeth.J Oral Maxillofac Surg 2009

抗凝固薬継続下での抜歯でに止血困難な状態になった場合は

PT-INR の測定を行い、ワルファリン療法の減量、中止、ビタミン K の投与などが考えられますが、ワルファリン服用継続で抜歯などの歯科小手術を行った場合、局所止血処置だけでコントロールできない術後出血の頻度は0から3.5%であるが、重篤な障害をきたした例はないと報告されています。
出典 Pototski M Amenabar JM.Dental management of patients receiving anticoagulation or antiplatelet reeatment.J Oral Sei 2007

抜歯処置において、対応困難な出血を起こす場合は,血管損傷や顎骨損傷を合併している可能性が高く、抗凝固薬の使用の有無にかかわらず,救急搬送などの迅速な対応が求められます。