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妊娠中に、歯医者の処方薬を飲んでも大丈夫ですか?

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 治療法が適切かは、過去からの経験から判断されます。学会での症例報告、学術調査などの積み重ねで改良、安全性が確立していきます。
薬が一人前として世に出るのはとても大変です。動物実験などで安全であると確認された後、少人数の健康な人を対象にごく少量から行われ(治験フェード1)、実際にその病気の人(フェード2・3)へと安全性や効果が確かめられ、薬として認可されます。世に出るまで10年近くかかることもあります。そしてその後も問題が出ればその情報が迅速に報告され、使われなくなってしまう薬もあります。ですので、現在使用されている薬のほとんどは極めて安全性が高いのです。

妊婦に対する安全性は大丈夫でしょうか ?


 妊婦さんに「もしかするとお腹の中の赤ちゃんに問題が起こるかもしれませんが、薬の安全性の実験に参加していただけますか」と言われて参加してくれる妊婦さんはいませんし、赤ちゃんに対するリスク(危険性)が重大なので、製薬メーカーも臨床に携わっている医師も行おうとしません。妊婦さんの薬の使用に対する、症例報告・学術調査はほとんどないのが現実です。このため薬の添付文書(効能・服用量・副作用などが記載された使用説明書)の「妊婦,産婦,授乳婦等への投与」という項目に、
「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること」
と歯科医院で処方する薬のほどんど全てに記載されています。

問題があればさらに詳しく記載されます


 さらに問題があればさらに記載が続きます。例えば、効果の大変優れた鎮痛剤であるジクロフェナクナトリウム錠には「妊娠中の投与で、胎児に動脈管収縮・閉鎖、徐脈、羊水過少が起きたとの報告があり・・・・胎児の死亡例も報告されている」と書かれています。
歯科でよく使う鎮痛剤や抗生物質(化膿止め)での添付文書の妊娠等に関係する部分をこのページの最後に記載してありますので参考にされてください。

妊婦さんに比較的安全性が高いと考えられる鎮痛剤は

 逆に考えれば、これらの記載がなければ問題が起きた報告が無いということですから、比較的安全にと使用できる考えることもできます。このため非ステロイド消炎鎮痛剤(NSADs)のうち、アセトアミノフェン(商品名カロナールなど)が浅草の歯医者さんでも第一選択とされていました。近くの歯医者でも妊婦さんにはこの薬を出すことが多いです。
 アセトアミノフェンは胎児の催奇形や機能障害と関連しないとの大規模な疫学的調査が行われたこともあり、妊娠している女性に処方するのに重宝な痛み止めでした。

しかし最近、アセトアミノフェンの添付文書の副作用の項目に

 「妊娠後期の婦人への投与により胎児の動脈管収縮を起こすことがある」との記載が追加されてしまいました。

妊娠月齢も重要です


赤ちゃんに対する薬剤の影響は表に示すように妊娠のどの時期に薬剤を服用したかにより異なります

妊娠の時期 薬剤の影響
~妊娠4週 母体から移行した薬剤の影響を強く受けた受精卵は,着床できなかったり、流産してしまったりして妊娠が継続されません。薬剤の影響が重度でない場合は、まだ胎児の器官形成は開始されていないので完全に修復されるとかんがえられています。ただし,残留性のある薬剤の場合は注意が必要です。
妊娠4週~7週 胎児の成長にとって器官形成期であり,奇形を起こすかどうかという意味では最も過敏性が高い期間です。絶対過敏期とよばれますが、妊婦さんご自身が、妊娠しることに気づいていないことも多いので注意が必要です。
妊娠8週~15週 胎児の重要な器管は形成されており,奇形を起こすという意味での過敏期を過ぎています。しかし臓器の分化などは続いているため,奇形を起こす心配がなくなるわけではありません。
妊娠16週~出産 胎児に奇形を起こすことが問題となることは無くなると考えられています。胎盤が発達するので、多くの薬剤は胎盤を通過して,胎児により移行しやすくなります。胎児発育の抑制,胎児の機能的発育への影響,子宮内胎児死亡,分娩直後の離脱障害が問題とになることもあります(注記1)
授乳期 ほとんどの薬剤が母乳中に移行する。赤ちゃんの消化管を通してお母さんが飲んだ薬が吸収されます。

注記1 長期に同じ薬を飲んでいると、その薬が体の中にあって当たり前の状態になります。タバコのニコチンは薬ではなく毒ですが、禁煙をしようと思っても体が要求し禁断症状が起きます。これと同じように出産後薬の供給が無くなることにより離脱症状が起こる場合があります。
注記2 妊娠時期を表すのには「週数」が用いられます。分娩予定日は「妊娠40週0日」になります。この方法は月経周期が28日型の人を基本に数えています。28日型の月経周期でない人は,妊娠初期の超音波像などから予定日を修正されることもあります。

 妊婦への薬剤投与が最も危険とされる時期は、胎児の脳や臓器が発生・形成・分化する時期である妊娠初期です。特に妊娠4~7周目です。
この時期ですと、患者さん本人がご自分の妊娠に気がついていないこともあります。歯医者にとって「妊娠しているかもしれない」「現在、妊活中」という情報はとても大切です。
近くの歯医者で初診の時の問診表に「妊娠中」だけでなく「妊娠の可能性がある」「妊娠しているかもしれない」など記載があるのはこの為なのです。

必要以上に薬の服用に対して危険視する必要もありません


 浅草の歯医者さんは薬についてとても勉強しています。浅草の薬剤師会とも連携して情報を共有しています。赤ちゃんへの影響が心配であれば、薬の成分や作用、副作用などにつて遠慮なく相談してください。田中歯科医院では、歯医者では珍しいのですが薬剤師が常駐しています。当院で処方された薬だけでなく、薬一般のこともご遠慮なくご相談ください。歯の治療と薬のことで疑問があればご来院ください。

痛みや化膿を我慢することは決してよくありません


 ちょっと歯がしみるからと安易に鎮痛剤を使用するのもよくありませんが、ひどい痛みを我慢するのも考えものです。歯が痛くて食事が食べられなければ赤ちゃんの栄養状態が悪くなりますし、歯が化膿しているのを我慢すればそのバイ菌が、血液→子宮→羊水と進入することもあります。薬を飲むのを我慢して母体に負担がかかっては元も子もありません。
かかりつけの産科の先生と連携して、歯科治療を進めていくことも必要になることもあります。

授乳婦(母乳をあげている)場合の注意

 出産後2ヶ月ほどで母体の身体の状態は落ち着いてくるので、通常の歯科治療は問題なく行うことができます。ただ、薬の服用に関しては母乳(おっぱい)への移行に注意しなければなりません。添付文書(医者・歯医者・薬剤師に対する薬の使用説明書)に「母乳への移行が報告されている」と記載されている薬剤も多くあります。

小さい子どもほど代謝が未完成です

 大人と同じレベルでは効いてくれません。感受性が強く、分解能力が小さいために効きすぎてしまうこともあります。近くの歯医者さんでで処方される鎮痛剤(痛み止め)は、ほとんどが解熱効果も併せてもっています。効果が出すぎると低体温などの副作用が出てしまう危険があります。

必要以上に怖がることはありませんが

 なるべく効果が長く続かない薬を選択し、授乳直後に飲んでもらう。前もって搾乳した母乳を冷凍保存してもらい、その後薬を服用してもらうなどいくらでも工夫できます。

母乳哺育は大切です

 お母さんの顔(特に目)を見ながらおっぱいを飲むことで、赤ちゃんは安心しリラックスします。お母さんも安心しリラックスする時間です。母子ともに至福の時間ですから大切にしてあげてください。

歯医者でよく出る薬の添付文書の妊婦、産婦、授乳婦等の記載

鎮痛剤(痛みどめ)

鎮痛剤名 妊婦、産婦、授乳婦等への投与
アセトアミノフェン
  商品名
(カロナール)
(アセトアミノフェン細粒)
(1)妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している
 可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される
 場合にのみ投与すること。
(2)妊娠後期の婦人への投与により、胎児に動脈管収縮を起こすことがある。
(3)妊娠後期のラットに投与した実験で、弱い胎仔の動脈管収縮が報告されている。
ジクロフェナクナトリウム錠
 商品名
(ボルタレン)
(ボルマゲン等)
(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。
 [妊娠中の投与で胎児に動脈管収縮、閉鎖、徐脈、羊水過少が起きたとの報告が
 あり、胎児の死亡例も報告されている。また、分娩に近い時期での投与で、
 胎児循環持続症(PFC)、動脈管開存、新生児肺高血圧、乏尿が起きたとの
 報告があり、新生児の死亡例も報告されている。]
(2)子宮収縮を抑制することがある。
(3)本剤投与中は授乳を避けさせること。[母乳中へ移行することが報告されている]
ロキソプロフェンナトリウム
  商品名
(ロキソニン)
(ロキソマリン等)
(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を
 上回ると判断される場合にのみ投与すること。
 [妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
(2)妊娠末期の婦人には投与しないこと。
 [動物実験(ラット)で分娩遅延が報告されている。]
(3)妊娠末期のラットに投与した実験で、胎児の動脈管収縮が報告されている。
(4)授乳中の婦人に投与することを避け、やむをえず投与する場合には授乳を
 中止させること。[動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されている]
バイアスピリン
  商品名
(バファリンA330錠)
(1)出産予定日12週以内の妊婦には投与しないこと。[妊娠期間の延長、
 動脈管の早期閉鎖、子宮収縮の抑制、分娩時出血の増加につながるおそれがある。]
  海外での大規模な疫学調査では、妊娠中のアスピリン服用と先天異常児出産の
 因果関係は否定的であるが、長期連用した場合は母体の貧血、産前産後の出血、
 分娩時間の延長、難産、死産、新生児の体重減少・死亡などの危険が高くなる
 おそれを否定できないとの報告がある。(ヒトでの妊婦は除く。)
  又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると
 判断される場合にのみ投与すること。[動物実験(ラット)で催奇形性作用が
 あらわれたとの報告がある。妊娠期間の延長、過期産につながるおそれがある。]
(2)授乳中の婦人には本剤投与中は授乳を避けさせること。
 [母乳中へ移行することが報告されている。]

抗生物質(化膿どめ)

鎮痛剤名 妊婦、産婦、授乳婦等への投与
ピボキシル塩酸塩
  商品名
(フロモックス錠)
 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると
判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。
 また、妊娠後期にピボキシル基を有する抗生物質を投与された妊婦と、その出生児に
おいて低カルニチン血症の発現が報告されている。]
 低出生体重児、新生児に対する安全性は確立していない。[使用経験がない。]
セファレキシン
  商品名
(ケフレックス)
 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると
判断される場合にのみ投与する[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない]
ジョサマイシン
  商品名
(ジョサマイシン錠)
(1) 妊婦等:妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると
 判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない]
(2) 授乳婦:本剤投与中は授乳を避けさせること。[ヒト母乳中へ移行する。]
アモキシシリン
  商品名
(サワシリン)
(アモリン)
(パセトシン)
(アモキシシリン)
(1)妊婦等: 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を
 上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立
 していない。なお動物試験(ラット)において、アモキシシリン水和物(500mg/kg/ 日)、
 クラリスロマイシン(160mg/kg/ 日)及びランソプラゾール(50mg/kg/ 日)を併用投与
 すると、母動物での毒性の増強とともに胎児の発育抑制の増強が認められている。
  また、ラットにアモキシシリン水和物(400mg/kg/ 日以上)、クラリスロマイシン
 (50mg/kg/ 日以上)及びラベプラゾールナトリウム(25mg/kg/ 日)を4週間併用
 投与した試験で、雌で栄養状態の悪化が認められている。]
(2)授乳婦: 授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する
 場合は授乳を避けさせること。[母乳中へ移行することが報告されている。]
レボフロキサシン錠
  商品名
(クラビット錠)
(1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。
[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
(2)授乳中の婦人には本剤投与中は授乳を避けさせること。
[オフロキサシンでヒト母乳中へ移行することが報告されている。]
・小児等への投与
 低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していないので
 投与しないこと

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