医者のための歯科診療の手引
抗血小板薬と抜歯
抗血小板薬服用者の手術検査においては出血が懸念され、かつては出血を避けるため一定期間抗血小板薬を休薬していましたが、薬剤中断により血栓・梗塞症の危険性が高まります。薬剤を継続するか中断するかの判断は手術の規模や原疾患の危険性により決定するべきです。
アスピリン服用患者ではアスピリンを継続して抜歯を行っても、重篤な出血性合併症を発症する危険性は少ない。
(エビデンスレベルⅡ)
また、充分に局所止血処置を行うことが推奨される。
※ エビデンスレベルⅡ(一つ以上の RCT による)
抗血小板薬は血小板凝集能抑制するため、当然観血的処置時に出血傾向が生じる危険があります。しかし、抗血小板療法を中断すれば、脳梗塞などの血栓梗塞症を発症する危険性も増大します。
抗血栓療法に関する循環器領域のガイドラインでは、アスピリンは7~14日前までに中止することが奨励されています。
※ Wynn RL,Bergman SA.Clopidogrel(Plavix) Dental considerations of an antiplatelet drug.Gen Dent 2001
しかし、消化器内視鏡検査ガイドラインでは,アスピリンは通常の内視鏡,生検を含む出血性の低い内視鏡では、休薬なしでの施行を推奨しています。
※ 藤本一眞 抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診察ガイドライン、日本消化器内視鏡学会雑誌2012 54
抜歯における抗血小板薬の継続
アスピリン100mg/日服用患者39名の抜歯に際し、無作為に19名の継続群と20名の中断群に割り付けて比較すると、継続群では出血時間は正常範囲内で延長するものの、両群共に術後出血は発生しなかった。
※ Ardekian L,Gaspar R,Peled M,Brener B,Laufer fo discontinuing aspirin therapy on the risk of brain ischemic stroke.Arch Neurol.2005 62
このほかの研究でも、抜歯に対し、アスピリンを継続投与した群と中断した群の比較において血小板凝集能は継続群で低下するものの、処置中の出血量に差が見られなかったという報告ばかりであり、
日本人を対象にした観察研究でも、抗血小板薬(アスピリン、チクロピジン塩酸塩、シロスタゾール)を投与継続して抜歯を行うと、術後出血は0~2%に発生するものの、重篤な出血はなく、局所止血処置により止血可能であると報告されています。抗血小板薬継続下の抜歯時の術後出血発生率はワルファリン症例の約2分の1以下であり、発生率は低いと考えられています。
※ 玉井和希、伊介昭弘、杉崎正志、田辺晴康 当科における抗血小板薬内服患者の抜歯における口腔内管理方法について 日有病歯誌 2007 16
※ 岩崎昭憲、三宅実、目黒敬一郎ら 抗凝固・抗血小板療法施行患者における抜歯手術に関する臨床的検討 歯薬療法 2008 27
これらのことから、アスピリンを継続投与して抜歯を行っても、修徳な出血性合併症を発症する危険性は、ワルファリン以上に低く、中断により脳梗塞の発症リスクが3.4倍高くなることから、アスピリン継続下の抜歯が推奨されます。
※ Maulaz AB,Bezerra DC,Michel P,Bogousslavsky J.Effect of discontinuing aspirin therapy on the risk of brain ischemic stroke.Arch Neurol 2005 62
当然その際には適切な局所止血処置を行う必要があります。
モニタリング方法は
ワルファリン療法のモニタリングとしては PT-INR がありますが、残念ながら現時点で抗血小板療法に対するモニタリングとしての適切な検査方法はありません。
ワルファリンは薬効に対する個人差が強く、血中濃度が充分でないと効果がありません。逆に、治療域を超えて効き過ぎてしまえば出血性合併症の増加のために PT-INR によるモニタリングが欠かせません。
一方、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓性疾患の再発予防に対し、抗血小板療法は大変有効である上、抗血小板薬は抗凝固薬に比べ出血のリスクが少なく、薬効モニタリングの必要性が重要視されていません。
※ 松原由美子、村田満、抗血小板薬のモニタリング-抗血小板薬の薬効評価の基本的考え方と実践、医学のあゆみ 2009 228
抗血小板薬の薬効を判定するには、出血時間、血小板凝集能、βトロンボーングロブリン(βーTG)や血小板第Ⅳ因子の測定などがありますが、どの検査が抗血小板薬の薬効判定に適しているかの検証はほとんどありません。
抜歯に関し、出血時間値を参考にする報告もあります。
※ Ardekian L Gaspar R,Peled M,Brener B,Laufer D.Does low-dose aspirin therapy complicate oral surgical procedures? J Am Dent Assoc 2000 131
しかし、出血時間は皮膚をメスで切開し、止血時間を測定するため、侵襲的で検査手技が結果に大きく影響を与え感度が低いという欠点があります。このため、モニタリングとしては最適の検査とは言えませんが、異常値を示す症例については、慎重な局所止血処置が必要な事に留意しなければいけません。
血小板凝集能を検査として取り入れるという流れもありますが、関連性を検討した報告は乏しく、日本抗血栓止血学会では、抗血小板薬モニター検査についての標準化への取り組みを行っています。今後のモニタリング方法の開発が望まれるところです。
難抜歯などに対する対応は
埋伏智歯の抜歯など、骨削除など強い外科的侵襲の加わる抜歯処置に対しては、原疾患が充分コントロールされていれば、外来において普通抜歯から難抜歯、多数歯の抜歯まで可能であると考えられています。
※ Brennan MT,Valerin MA,Noll JL,Napenas JJ,Kent ML,Fox PC,et al.Aspirin use and postoperative bleeding from dental extractions.J Dent Res 2008
しかしながら、埋伏智歯の抜歯や多数歯の抜歯など、術後の出血に対するリスクはもちろんのこと、
外科的ストレスが非常に大きく原疾患に関わる合併症を惹起することが心配されます
。このため歯科大学病院など全身管理の可能な医療機関での受診を勧めるべきと考えられます。
抗生物質などを咬筋役は
抗血小板薬服用患者の抜歯に当たり、通常方法で抗菌薬を投与することにより、抗血小板作用が上京するという危険性は低いです。
観察研究でシロスタゾールとマクロライド系抗生物質であるエリスロマイシンとの併用で、シロスタゾールの血中濃度が高く維持され、作用が増強される可能性があるとされますが、出血事象は報告されていません。
※ Suri A Fobes WP,Bramer SL,Effects of CYP3A inhibition on the metabolism of cilostazol.Clin Pharmacokinet 1999 37
抜歯後に抗生物質を数日間投与しても,明らかに抗菌薬の投与を原因とする術後出血はないと考えられます。
鎮痛剤の使用は
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の多くはシクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を阻害し、可逆的な抗血小板作用を有します。抗血小板薬とNSAIDsの併用では、両薬剤の相互作用のため出血性合併症を発症する可能性があるため慎重投与が必要と考えられます。
アスピリンはCOXを不可逆的に抑制することにより、トロンボキサンA2(TXA2)の合成を阻害し、血小板凝集能を抑制してしまいます。このため、血小板が入れ替わる7~10日間持続します。
症例報告で鎮痛のためアスピリンを(服用量は不明)を服用していたアルコール乱用患者に対し、18歯抜歯行ったところ、輸血が必要になる大出血が生じたという報告があります。
※ Lemkin SR,Billesdon JE,Davee JS,Leake DL,Kattloe HE.Aspirin-induced oral bleeding correctionn with platelet transfusion.Oral Surg Oral Med Oral Pathol.1974 37
ただ、これはかなり大量のアスピリンを服用していたという恐れもあり、またアルコールによる直接的な抗血小板作用の増強、
肝機能障害による凝固機能そのものの崩壊
が強く疑われます。
我々歯科医にとって、抗凝固薬にしろ、抗血栓薬であれ医科にてよくコントロールされている症例はあまり怖くありません。医科の先生との密な医療連携により、対応可能です。しかし、抜歯後の出血のコントロールが良くできない原因が肝機能障害で起こっている場合の方が実際には多く見受けられます。特に患者自身が自分の肝機能に対する認識が乏しいことが多く、またアルコール摂取量が過剰な患者は、この点を医療機関に対しても隠そうとする傾向が強く、言葉は悪いですが「疑いを持って患者に接する」ことが必要だと思います。
アスピリン以外の NSAIDsも COX の活性を阻害し、プロスタグランジンやTAX2の合成を抑制して解熱鎮痛作用を生じるのはもちろんのこと、抗血小板作用も生じてしまいます。しかし、これらの薬剤の採用は可逆的であるためアスピリンほど重大な影響は及ぼさないと考えられます。
後継相伴役と NSAIDsとの併用による出血性合併症に関するエビデンスは乏しいですが、アスピリンの出血性の危険を考えると、インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム、フェノプロフェンカルシウムなどの併用は注意が必要と考えられます。
アセトアミノフェンが比較的安全
アセトアミノフェンの抗血小板作用は弱いため、NSAIDsよりは出欠の危険性は低く短期間の使用は推奨されています。
Scully C,Wolff A.Oral surgery in anticoagulant therapy.Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod.2002 94
