医者のための歯科診療の手引
抗血栓療法患者の抜歯
抗凝固薬
とても長い歴史を持つワルファリンですが、かなり以前までは休薬後に抜歯をするのが常識となっていました。しかし1998年Dr.Wahlの論文(現在エビデンスレベルは低くなってしまっていますが)により、抜歯時ワルファリンを中断した場合、
1%に重篤な血栓症が発症し、しばしば死の転機をとる。
ことから、現在ではワルファリンを服用継続のまま、抜歯をするべきであるという考え方になっています。
PT-INR が3.0以下であること
INRが、3.0以下であれば、ワルファリン継続下で抜歯行っても、重篤な出血性合併症生じない。
ただし、埋伏歯や骨削除を伴う難抜歯に関してはエビデンスの高い論文がほとんどないのが現状で、慎重に対応することが求められます。特に下顎智歯の抜歯は、根のすぐ近くに頚動脈の枝である下顎動脈が走っており、若い健康な人の抜歯でも極めてリスクの高いものです。全身的な疾患のある患者さんのハイリスクな抜歯は全身的な管理のできる大きな病院での抜歯をすすめてください。
歯科大学病院への紹介を奨める
歯科開業医レベルで外科処置を行うことが難しいようであれば、歯科大学の附属歯科病院などへの紹介を奨めて頂ければ助かります。
抜歯処置を受ける患者さん本人が、抜歯を軽く考え、簡単な処置であると思っているケースが多いです。
歯科医師が、大学病院への紹介を奨めても、上記の理由から「たかだか歯を抜く程度で大げさな、チャッちゃってやっちゃってよ。」とか「ここの歯医者は面倒くさいから、別の歯医者でワルファリン飲んでるなんて内緒にして抜いてもらっちゃうよ。」などという困った患者さんがいるのも事実です。医科の先生から、文面で手紙をいただき、事の重大さに気づいてくれる患者さんも多いのです。
歯科からの問い合わせの文面から、紹介元での抜歯が難しいとお考えならば、いただくお返事に「全身的に不安定な要因があるので、全身管理のできる歯科大学病院等での抜歯をおすすめします。」と添えてくれれば大変助かります。(歯科からの問い合わせの文面で、その歯科医院の技量を推察頂ければさらに幸いです)
新規経口凝固剤は
正直、ワルファリンは長い歴史を持ち、 PT-INR というわかりやすい指標があるので便利です。しかし直接トロンビン阻害薬のダビガトラン(プラザキサ)や選択的直接作用型第Ⅹa因子阻害剤である リバーロキサバン(イグザレルト)・アピキサバン(エリキュース)・エドキサバントシル酸水和物(リクシアナ)などについては、正直エビデンスが少なく、今後のデータの蓄積が重要とされています。
やはり継続投与のままで
原疾患が安定し、至適量が投与されていれば、継続投与のまま抜歯行っても
適切な局所止血を行えば重篤な止血生合併症を発症する危険性は少ない
と考えられています。
できれば薬の服用後12時間(現実的には難しく6時間)以降の抜歯が安全とされます
本当に怖いのは、肝機能障害
抗凝固薬を使っている患者さんは、内科の先生によってよくコントロールされていると我々歯科医師は考えています。普通に歯を抜いて出血が止まらないような血液の状態であれば、脳内出血などのリスクも高いはずですから。我々歯科医も、スポンゼルを抜歯窩に入れたり、きっちり縫合したり、止血シーネを作ったり、局所的な止血法は心得ています。
じわじわジワジワと長時間イヤーな出血をする患者さんがいます。釈迦に説法ですが、ほとんどの血液凝固因子は肝臓由来ですので、肝機能に何らかの障害があるケースが多いです。GOT.GPT など血液検査の結果を教え頂ければさらに幸いです。ただ、血液検査で肝機能に異常がなくても「この患者さんちょっと肝臓の調子悪いんじゃないかな」って思う場合もあります。
少しずつページ数を増やしていきますので、この件はまた、早めにアップします。
抗血小板薬
アスピリン(バイアスピリン・バファリン81)をはじめ、チクロピジン(パナルジン)・クロピドグレル(ブラビックス)・ジピリダモール(ペルサンチン)・シロスタゾール(プレタール)などなど
継続下でほとんど問題になりません
かなり多くの抗血小板薬が出てきています。抗凝固薬よりもさらに問題が少ないように思っています。(個人的な感想でエビデンスはありません)。もともと血小板は血中の量も多くそうやすやすと阻害されるような事はないような気がします。
鎮痛剤(NSAIDs)やCOX2阻害薬は
NSAIDsの多くはシクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を可逆的ではありますが阻害し、抗血小板作用を示します。また PT-INRを上昇させることもあり、出血性合併症のリスクが大きくなるので注意が必要と考えられます。COX2阻害薬も同様に原則的に抜歯後の投与はおすすめしないほうがいいと思います。
またアスピリンはCOX5不可逆的に抑制することにより、トロンボキサンA2の合成を阻害し、血小板凝集能抑制してしまいます。
アセトアミノフェンは、COX-1やCOX-2の阻害作用が少なく、好血小板作用も弱いため短期間の使用であれば問題はないと考えられています
いずれにしても、エビデンスがほとんどなく、やっぱりアセトアミノへンしかないのかなーと思います。
抗菌薬は
ワルファリン服用患者の抜歯にあたり、感染性心内膜炎予防のために抗菌薬を1回のみ投与しても、 PT-INR は変動せず術後出血は増加しないので問題はありません。ただし、一定期間抗菌剤を投与する場合は PT-INRは上昇し出血しやすくなるので注意が必要です。これは、抜歯後に食事が食べにくくなったり、腸内細菌をいじめることにより、ビタミン K の合成阻害とも関係していると考えられていますが、明確なエビデンスはありません。抜歯後1週間経ってから再出血をきたしたという症例もあります。ただ、抜歯の後出血は歯科医院でほとんど対応可能ですが、消化管の出血や脳内出血のリスクが高まるので、現実的な対応としては抜歯後の定期的な PT-INR 値の測定が望まれます。
ただ、ワルファリンに関しては、 PT-INR という効果を判定する指標がありますが、これ以外の抗凝固薬に対しては明確な判定する基準がないため、難しいところです。
実際に歯医者さんもお医者さんも、抜歯の時そのものの出血は心配するものの、その後の抗生剤による影響をあまり心配しないのは不安なところです。日本では、抜歯後の感染を心配し、抜歯後数日にわたり抗生剤を投与することが多く、この時期の全身的な注意深い観察が実はとても重要です。
全身的な抗生剤の投与は極力短期間にとどめ、局所的な抗生剤の挿入や、抗生剤のうがい薬(デンターグル(フラジオマイシン)うがい薬)などを使用し、術後の管理を的確に行うことが重要と考えられます。
