組織検査をしないと「がん」の診断は出来ません
どんな名医であろうとも、目で見ただけ(視診)ではガンかどうかはわかりません。症状からも判断することはできません。ガンの確定診断は、「病理組織検査」だけです
がんを調べる方法
病理組織検査
病変部(疑いを含む)から組織を採取し、顕微鏡で観察可能な病理組織標本を作ります。それを病理医が顕微鏡で直接観察し、その病変の本態をとらえ、最終診断となる病理組織診断を下す検査です。
● 腫瘍性病変か非腫瘍性病変(炎症など)か
● 腫瘍であれば、良性腫瘍か悪性腫瘍か、上皮性腫瘍か非上皮性腫瘍か、悪性度や広がりは などを調べます。
● 非腫瘍性病変であれば、炎症や変性などの変化や程度
● 治療方針を示唆する所見はあるかどうか などを調べます。
がんのクラス分類
パパニコロウ分類と呼ばれる分類法で、腫瘍の悪性度をⅠからⅤの5段階に分類します。通常、細胞診と呼ばれる検査方法で診断を行ないます。針で吸引したりブラシでこすったりして細胞を採取したり、尿などの中に剥がれ落ちてくる細胞を顕微鏡で調べる検査です。組織を直接取っておこなう(生検)場合もあります。
クラスⅠ | 正常細胞(異常なし) |
クラスⅡ | 異型細胞は存在するが、悪性ではない |
クラスⅢa | 軽度・中等度異型性(悪性を少し疑う) |
クラスⅢb | 高度異型性(悪性をかなり疑う) |
クラスⅣ | 悪性細胞の可能性が高い、あるいは上皮内がん |
クラスⅤ | 悪性と断定できる異型細胞がある |
上の表から、クラスⅠ、Ⅱは良性の腫瘍で、クラスⅢは良性・悪性の判断がつかないものです。クラスⅣ、Ⅴは悪性、すなわち「がん」ということです。クラスⅢの場合は、数ヶ月後にもう一度細胞診の検査をおこないます。クラスⅣの場合は、悪性と判断されたのですが、クラスⅤではありません。極めて疑わしいですが、まだがんでない可能性もあるという状態です。クラスⅤの場合は、残念ながらがんです。
がんの進行度を表す「TNM分類」
がんの進行度は「TMN分類」と呼ばれる分類方法で分類されます。
・がんの大きさ(広がり)(T0~T4)
・リンパ節への転移の有無(N0~N4)
・他の臓器への転移(M0、M1)
このTMN分類を元に、がんの進行具合を0から4の5段階のステージに分類します。数字が進むほどにがんが進行していることになります。
つまりクラス診断でがんと診断された後に、その進行具合がどうなっているかを表わすのがステージです。
がんのステージとは
ステージ0 | がん細胞が上皮細胞内(粘膜や皮膚)にとどまっていて、リンパ節に転移は見られない状態 |
ステージⅠ | がん細胞が少し広っているが、筋肉層にとどまっている状態で、まだリンパ節への転移はありません |
ステージⅡ | がん細胞がさらに筋肉へ広がりを見せ、リンパ節への転移がほんのすこしみられる状態 |
ステージⅢ | がん細胞がまわりの組織に浸潤しており、リンパ節への転移がはっきりとわかる状態 |
ステージⅣ | がん細胞が離れた臓器へ転移した状態 |
がんではよく「5年生存率」という言葉を使います。がんの治療開始から5年後に生存している人の割合のことです。膵臓がんや肝臓がんを除いて、ステージ0やⅠでは多くのがんで5年生存率が80~90%を超えます。ステージが進むほど下がっていき、4期ではがんによっては数%に下がってしまいます。がんの早期発見・治療が大切なのです。ちなみに口腔がんの場合、初期段階(ステージⅠ)の5年後の生存率は97%以上です。 浅い口腔がんであれば切除範囲も小さくて済むため、大きな後遺症はありません。しかし早期発見をのがすと、口腔・咽頭がんの死亡率は46.1%であり、死因10位とかなり危険な「がん」です。
がんの人数
•2017年にがんで死亡した人は373,334人(男性220,398人、女性152,936人)
•2016年に新たに診断されたがん(全国がん登録)は995,132例(男性566,575例、女性428,499例)
2018年予測数で、男女計で100万人です。
がんの死亡数が多い部位は順に(2017年)
1位 2位 3位 4位 5位 | |
男性 | 肺 胃 大腸 肝臓 膵臓 |
女性 | 大腸 肺 膵臓 胃 乳房 |
となっています。
口腔がんの人数
がんでで多いのは 大腸 152,100例 胃 128,700例 肺 125,100例 (男女計2017年)です。
これに比べて口腔・咽頭がんは 23,000人の方が患っており、全体の1~3%と推定されています。
2017年には、男性 5,328人 女性 2,126人 の方が口腔咽頭がんが原因でお亡くなりになっています。
(きちんとした統計がありませんが、口腔がんに限る(咽頭を除く)と、毎年約7000人が口腔ガンになっていて、そのうち約3000人が亡くなっています)
男女比は 3:2 と男性に多く、年齢的に60歳代に最も多いとされています。
前置きが長くなりましたが本題の口腔がん検診です
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針(平成28年改正)」で検診方法が定められています。しかし国の方針として、上記の人数の多いがんに重きがおかれていて、舌がんなど、口腔のがんについては、国の指針として定められている検診はありません。
ご自信で、積極的に近くの歯科医院など医療機関で検診することが勧められます。自治体の検診や、職場の検診ではもちろん、人間ドックなどでも口腔内の検診が付いているものは皆無に近いのでご注意ください。
健診などで、問題ないというのは、「今回検査した内容では異状を見つけられなかったです」
ということに、すぎません。健診または検診のレベルも大切です。
口腔がんやその関連疾患は後に説明することにして、具体的にどのような検診をおこなうかさきに説明していきます。
実際の口腔がん検診の流れ
問診
● 飲み込むときに違和感がないか
• 首のリンパ節が腫れたり、痛みや違和感がないか
• 口内炎が治らない(数週間以上をめやすにしています)
● 舌の動きに対する違和感や舌のしびれがないか
● 痛みや出血が持続する、口臭が強くなるなど歯周炎の症状がないか
視診・触診
口腔は胃カメラのように、特別な道具が無くても検診できるので、本来、早期発見されやすいがんとも言われています。しかし、歯周病や口内炎の裏にがんが隠れている場合も多く、また世間一般の認識度が低いことから、実際には発見するのが難しいのが現状です。
そのため、残念なことにがんが進行してから発見される場合も少なくありません。頬粘膜や歯肉、舌や舌の裏面の
•粘膜の赤み(発赤)
•ただれ(びらん・潰瘍)
•触ると硬い(硬結)
•しこり(腫瘤形成)
などを観察していきます。白板症などの前ガン病変も見ていきますが、一時的な傷や、やけどなどと区別しにくいこともあり、しばらく(数週間)経過観察をおこなうことも多いです。
エックス線写真
疑われる部分の、エックス線写真をとることもあります。がんは、見境無くひろがるので、顎の骨を破壊しながら大きくなることもあります。歯肉がんがあると、骨に浸潤している状態などが確認できることもあります。破壊された部分と健康な部分の骨の境界面の状態なども参考になります。
疑わしいと判断した場合は病理検査
最初に記載した細胞診や生検をおこないます。
細胞診
がんが疑われる部位の表面組織を綿棒などでこすり取り、顕微鏡でがん細胞であるかどうかを調べ、がん細胞の種類、悪性度などの判定を行う方法です。がん細胞の場合はいびつな形をしているため、採取した臓器にいびつな細胞があるかどうか、を見ます。例えば子宮頸がんの場合、子宮口や子宮頸管の一部を綿棒でこすり取って細胞を集め、それらの細胞を観察することで、がんの有無を検査することが出来ます。傷をほとんどつけないので、人間ドックや集団検診などで行われている検査です。ただし、組織の細胞をバラバラの状態で観察するので、細胞診だけで100%確定診断することはできません。
生検
疑わしい病変の一部を切り取って、顕微鏡で観察する方法です。例えば胃カメラを飲んで潰瘍が見つかったら、がんかどうか確認するため組織の一部を採取して、見やすいように染色して顕微鏡で観察します(病理検査)。組織の形を見ることでがんであるかどうか、を診断することが出来ます。口腔内は比較的組織を取るのがたやすいので、キズにはなりますがこちらの方法を選択するほうが確実です。
専門機関への依頼となります
病理検査は、街中の歯科医院で行うのは難しく、歯科大学病院や、医科大学の口腔外科へ紹介して検査してもらうのが一般的です。
浅草田中歯科医院は、日本大学歯学部付属歯科病院・三井記念病院・日本赤十字社医療センター・総合東京病院・東京歯科大学水道橋病院・東京慈恵会医科大学病院の医療連携協力医療機関・登録医ですので、スムーズなご紹介が可能です。
口腔がんの検診精度
口腔がんは、胃がん・肺がん・大腸がん・子宮がん・乳がんといった5大がんと比較して、発生率が低いことから、厚生労働省は、口腔がんを希少がんと位置づけています。しかし我々歯医者は、口腔がんを「口腔粘膜にしばしば遭遇する重要な悪性疾患」ととらえており、検診の必要性を訴え続けています。検診の精度も5大がんと比較して、充分な精度であると認識しています。
口腔がん | 胃がん | 肺がん | 大腸がん | |
ガン検診受診者数 | 13,265 | 2,324,312 | 4,033,976 | 4,876,235 |
精密検査者数 | 655 | 427,949 | 212,154 | 521,695 |
精密検査になった割合 | 4.93% | 7.54% | 1.96% | 6.65% |
がんと診断された人数 | 21 | 2,237 | 1,515 | 9,237 |
精密検査 → がんの割合 | 3.21% | 1.28% | 1.92% | 2.85% |
検診 → がんの割合 | 0.16% | 0.10% | 0.04% | 0.19% |
胃がん肺がん大腸がんは、厚生労働省の「平成27年度地域保健・健康増進事業報告」平成26年度のデータ
口腔がんは東京歯科大学のデータ(1992年から2013年までの3都県の集計)
参考までに
乳がん
平成26年度に乳がん検診を受けた方は2,182,748人で、受診者のうち、8.38%(182,909人)の方が要精密検査となり、要精密検査者の4.05%(7,416人)の方から乳がんが発見されました。
子宮頸がん
検診を受けた方は4,199,634人で、受診者のうち、2.29%(96,175人)の方が要精密検査となり、 要精密検査者の1.86%(1,785人)の方から子宮頸がんが発見されました。
要精密検査でも必要以上に心配しないでください
上記のように、もし要請蜜検査になったとしても、がんである可能性は3%以下です。検診の目的が「早期発見・早期治療」であることを考えると、少しでも気になるような変化があれば、「とりあえず、再検査」とわれわれは医者は考えてしまいます。すなわち、「疑わしきはさらに検査」というのが基本的なスタンスです。
要精密検査となっても、その結果「さいわいにがんではなかった」という人がほとんどです。過度に心配しないでください。
しかし逆に、「精密検査や再検査が必要」と歯医者や医者が診断しても、放置する方が意外にけっこう多くいます。
「何も自覚症状はないので、大丈夫です」と自信をもって言う方もいます。(がんで自覚症状がでていれば、かなり進行しています。)
「何を言われるか怖いので、つい受診を先延ばしにしてしまう」という方の気持ちもよくわかるのですが、放置してもしがんであれば進行してしまいます。歯医者や医者からすすめられたら迷わず
可及的速やかに精密検査です
がん検診では、がんになる前の病変が発見されることもあります。子宮頸部異型上皮、大腸腺腫(ポリープ)等の前がん病変は、それを治療することでがんになることを防ぐことができます。口腔粘膜でも、白板症などの前がん病変があります。
がん検診の問題点
偽陰性
がんを見逃してしまう事です。がんが見つけにくい場所にあったり、他の臓器の影にひそんでいたり、発見できない事があり、検査の精度は100%ではありません。口腔内のがんも、歯周病などと鑑別しにくく、意外と発見しずらいものです。
このため一度検査を受けたからといって過信して安心せず、適切な間隔で定期的に検診を受けることが必要です。
肺がん・大腸がん検診は1年に1回、胃がん・子宮頸がん・乳がん検診は2年に1回検診を受けることが推奨されています。これにより発見できる確率は高まり、がんによる死亡を回避することができます。
偽陽性
「がんの疑いがあるので、要精密検査が必要です」ととされた場合でも、ほんとうにがんであったというのは前記のようにごくわずかです。専門的には陽性反応適中度というのですが、胃がん検診では1.24%、最も高い乳がん検診でも3.73%にすぎません。むしろ、多くの人々が、がんの疑いがあると脅かされて、精密検査をうけたのに「がんではなかった」という幸いな結果を受け取ることになります。
検査の結果が即日に出ればよいのですが、なかなかそうはいきません。その間、受診者の方に心理的負担はかなりなものです。早期発見、早期治療のためにはある程度やむをえないことではないかと割り切っていただくしかありません。
過剰診断
ひとくちにがんといっても、生命を脅かさないようなおとなしいがんもあります。
がん検診で発見されたがんの中には進行がんにならずに消えてしまったり、そのままの状態で大きくならずに、生命を脅かすことがないものもあります。現在の医療では、どのようながんが進行がんとなるのか、危険度はどのくらいなのか意外とよくわからない面もあるのです。早期治療を考えると、このようながんにも通常のがんと同じような検査や治療が行われ、かえって体に負担をかけてしまう場合もあります。
口腔に見られる前がん病変
口腔内に長期間にわたってみられ、将来、がんに移行する危険の高い粘膜病変を、前がん病変とよびます。この前ガン病変では、そこから口腔ガンができる場合もあれば、すでに前がん病変とがんが共存している場合があります。
前がん病変には白板症と紅板症があり、いずれも口腔内のどこにでも発生します。
● 白板症は周囲よりやや隆起した白っぽい粘膜病変でこすっても消えません。
● 紅板症はビロード様で、周囲よりやや隆起したあるいはただれた、赤っぽい病変としてみられます。
これらの前ガン病変に対しては、病状により切除あるいは長期にわたる定期的観察が行われます。
くわしくは、
危険な口腔粘膜疾患 をごらん下さい。
PET/CT(ペット 陽電子放出断層撮影)
がん細胞が、正常の細胞の5~8倍のぶどう糖をとりこむ性質を利用して、ぶどう糖に非常に似た検査薬(FDG)を体内に注射し、がん細胞を見つけ出す方法です。、
検査薬のFDGは、正式名称は18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)といい、性質はブドウ糖とほぼ同じです。サイクロトロンと呼ばれる装置で放射能を持った原子(ポジトロン核種)「18F(フッ素18)」を作り、これをブドウ糖に組み込んだものです。
FDGを注射して、一時間ほどしてからCTを撮影すると、FDGが集中したがんを発見することができます。一度に全身をくまなくがん検診することができ、大変すぐれた方法です。
口腔内のがんを調べるのにもとても効果を発揮します。
ただ欠点として、費用が10万円ぐらいかかるのと、被ばく線量が約16~19mSvと多いのが問題です。
(参考 胃のバリウム検査で3.3mSv、胸部直接撮影で0.4mSv)
腫瘍マーカー
がん細胞は、健康的な人体にはあまり存在しない特異的なタンパク質などの物質をもっていることがあります。 腫瘍マーカーはこの特異的なタンパク質が血液の中に含まれていないかを調べる方法です。
前立腺がんの腫瘍マーカーの、PSA(前立腺特異的抗原)は、信頼性の高いものです。
口腔がんに有効な腫瘍マーカーは
消化管の悪性腫瘍を中心に、もっとも汎用的に用いられる腫瘍マーカーであるCEAや、食道・頭頚部・皮膚などの扁平上皮がんで高値となる血清腫瘍マーカーのSCC抗原、消化器がんや卵巣がんで上昇するCA72-4などがあります。
口腔内に生じるがんに対しても、診断の補助やがん手術後の経過観察に対しては非常に有効な手段になっています。
しかしながら、がんがある程度の大きさになるまで陽性を示さないという性格があり,陰性であるからといってがんを否定できるわけでもありません。アトピー性皮膚炎など、他の要因によって陽性を示すこともあります。
口腔がんの早期発見の手段としての利用価値はあまりありません。他の検査と合わせた補助的な検査方法としては有用です。
全身のがん検診について
浅草の歯科医であれば、どこでも口腔がん検診をおこなってくれます。ただ頻度としては、すべてのがんの2%程度であり、胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮がん・肝臓がん・前立腺がんなどの頻度の多いがんにたいしても注意をおこたることはできません。
いまや日本人の、2人に一人ががんになる時代です。神経質になることはありませんが、無視することもいけません。