白血病などの全身疾患の一つの症状として口腔内に口内炎ができたり、白板症のようにガン化する危険性のある病変があります。
口腔ガン
年間のがん患者発生数は約48万人と推定され、毎年ガンでお亡くなりになる方は30万人、日本人の死因の第1位です。このうち口腔領域におけるガンの比率は2%です。口腔ガンで最も多いのは舌ガン(約60%)で次が歯ぐきにできる歯肉ガン、そして舌の下にできる口底ガン、頬粘膜ガン、口蓋粘膜ガンと続きます。
舌ガン
多くは歯と接する舌の側面にできます。白くなったり、赤くなったり、表面的な変化が全くなかったり痛みがあったりなかったりと様々です。
進行すると粘膜の表面が隆起したり、硬くなり潰瘍ができます。
口内炎や舌痛症と勘違いされやすく発見しづらいのも特徴です。
歯肉ガン
歯ぐきにできるガンのことで舌ガンに次いで2番目に多いです。歯ぐきが腫れて出血しやすくなることが多く、歯肉のすぐ下の顎骨(歯槽骨)が溶かされ歯がグラつくことがあります。このため、歯周病と判別しにくく、注意が必要です。
それ以外の場所
口腔底・頬の粘膜・口蓋(上顎)・口唇などに出来ることもあります。
口腔ガンの進行程度
ステージ | 状態 |
---|---|
ステージI | がんの腫瘍が2cm以下で、リンパ節への転移がない |
ステージII | がんの腫瘍が2cm以上4cm以下で、リンパ節への転移がない |
ステージIII | がんの腫瘍が4cmを超え、又は首のリンパ節に3cm以下の転移がある |
ステージIV | 口の周囲の筋肉や皮膚、上顎洞にまで広がり、又はリンパ節へ3~6cmの転移がある(IVa期) 口腔を越え、頭やのど頸動脈まで広がり、又はリンパ節へ6cmを超える転移がある(IVb期) 口腔から遠く離れた臓器へ遠隔転移している(IVc期) |
ガンのクラス分類
ガンの確定診断として位置づけられているのは、病理医が顕微鏡レベルで調べる病理診断です。
通常、クラス分類は細胞診と呼ばれる検査方法で行ないます。細胞診は、針で吸引したりブラシでこすったりして細胞を採取したり、尿や痰などの中に剥がれ落ちてくる細胞を顕微鏡で調べる検査です。口腔内は、比較的 検体を採取しやすい場所です。
細胞診の判定はパパニコロウ染色という方法がよく用いられ、以下の5段階で行なわれます。
classⅠ(クラス1)… 異型細胞が認められない。正常です。
classⅡ(クラス2)… 異型細胞は認められるが、悪性の疑いはない。(例:炎症など)
classⅢ(クラス3)クラスⅢ … 異型細胞は認められるが、悪性と断定できない
(Ⅲa:おそらく良性異型 Ⅲb:悪性を疑う)
classⅣ(クラス4)… 悪性の疑いが濃厚な異型細胞を認める
classⅤ(クラス5)… 悪性と確定できる異型細胞(癌など)を認める
パパニコロウ染色は、ゲオルギオス・ニコラオス・パパニコロウ(Georgios Nikolaos Papanikolaou)(ギリシア人医師アメリカ国籍も有) によって1928年に発案された染色方法です。核をヘマトキシリンで染色し細胞質は分化度合いによってオレンジG、エオシンY、ライトグリーンにて染め分けをします。核内クロマチン構造および細胞質を透明感がありそして鮮明に染色できるため重なり合った細胞の塊をも観察することが容易な利点があり、細胞診断には必要不可欠な染色方法です。
口腔ガンの予後
リンパ節転移がないステージⅠ~Ⅱで発見された場合、処置の5年後の生存率は90%以上とかなり高いです。しかしステージⅢになると5年後生存率は50%~60%と下がり、ステージⅣになると5年後生存率は30%以下になってしまいます。
口の中は、直接、目で見たり触ることができるので早期発見が容易なように思われますが、早期発見率は20%程度と高くありません。
口は、顎の骨や首のリンパ節がすぐ近くにあり転移しやすく早期の発見が大切です。特に、舌がんの場合では、舌にはリンパ節が多く存在するため早い段階からリンパ節への転移をしますので、患者の約50%が、すでにリンパ節に転移した状態で発見されます。
その理由は、口腔がんの初期症状が口内炎や歯周病と似ているため、口腔がんだと気付かないことが多いためと考えられています。変だなと思ったら、迷わずに近くの歯医者さんを受診しましょう。
口腔ガンになりやすいのは
喫煙はさまざまな病気の原因です。口腔ガンの発症率を上げる要因でもあります。ニコチンなどの発ガン物質のみだけでなく、タバコを吸う熱のせいで口周辺の粘膜に刺激が与えられて粘膜ががん化しやすくなります。
アルコール特に高濃度のアルコールは直接粘膜に傷害を与えます。また低濃度でも量が多いと肝臓での分解が間に合わず発癌物質が発生します。
口腔内の衛生状態の悪さも原因の一つとされます。口腔内最近はアセトアルデヒドという発癌物質を作っています。
また、熱い物や刺激物を好む方は口腔だけでなく、食道ガンも多くなります。
前ガン病変
将来がんになる可能性が高いとされる病変を「前ガン病変」といいます。
白板症
口腔粘膜表面の角化が亢進し、白く変化した、摩擦によって除去できない病変を「白板症」といいます。男性は女性の2倍と多く、年齢では50~70代に多いです。表面は平滑なものや、しわ状のものもあります。
カンジダ菌、噛んで傷にした、凍傷など原因が明らかなものは白板症ではありませんし、それぞれの原因に対する歯医者での治療でなおります。
ガン化するのは10%程度です
前ガン病変ですが、白板症の多くはそのまま変化せず、ガン化するケースは10%程度です。組織をとって顕微鏡で病理組織検査をします。これを生検といいますが、角化層深部の粘膜上皮の細胞に異型性(形・大きさ・組織構築・異常分裂像)を調べます。
扁平苔癬(へんぺいたいせん)
口腔粘膜だけでなく、陰部粘膜、皮膚に生じる炎症性の角化病変をいいます。口腔扁平苔癬は線状や網目状の白色で周囲が発赤し、ただれることが特徴です。頬粘膜に左右対称に出現することが多いですが、歯ぐきや口蓋、舌、唇、のどにもおこります。
痛みのない場合もありますが、多くは、辛いものや熱いものがしみる、歯を磨くとすれて痛む、出血するなどの症状をおこします。
薬の副作用(β-遮断薬など)や細菌感染、C型肝炎、寄生虫、歯科金属アレルギー、中毒、ストレス、遺伝などが関係しているといわれますが、はっきりとした原因は不明です。治療がうまくいっても再発しやすく5年間で約20%の方に再発がみられます。
ガン化するのは1%程度です
口腔扁平苔癬の癌化率は、過去の報告からおよそ1%程度と言われています。白板症に比べて低いですが、WHOにおいても口腔粘膜の潜在性悪性疾患の一つに分類されており、定期的な経過観察は重要です。
紅板症(こうばんしょう)
口腔内の患部が周囲の粘膜よりも赤くなり、境界が明瞭なあざやかな鮮紅色へと変色していきます。ビロードのようなツルっとした平らな表面になるのも特徴の1つです。手や刺激物が触れると痛むケースがほとんどです。50歳代以上の方が全体の80%を占めていますが、発症例は多くありません。私も歯医者30年以上やっていますが、一例も見たことはありません。
約半数がガン化するといわれています
ガン化率は50%と非常に高いです。悪性化する可能性が高いため、外科的に切除するのが望ましいとされています。また治療後にも経過観察を行う必要があります。
その他
WHOの報告では8種の病変が挙げられています。
上記の三つのほかに
粘膜下線維腫 粘膜に白くがさがさした筋状の膨らみが生じ、徐々に弾力性が失われて硬くなる病気です。噛みタバコなどが原因とされています。
日光角化症 日焼けにより口唇粘膜が赤くなり、表面がざらざらしたり盛り上がったりします。
エリテマトーデス リンパ球が免疫反応を起こして生じる病変で、丸く赤い円板状の病変の周囲に放射状の白線が現れます。
タバコの火が付いている部分を吸う習慣のある人に見られるもので、口蓋粘膜が灰白色に変化します。
表皮水疱症 口腔粘膜に水疱やびらんが発症する遺伝性の病気です
ご自身で口腔内のチェックをしてみましょう
明るい場所で(懐中電灯を利用するのも良いです)
大きな鏡の前で
入れ歯を外して
ご家族など身近な人に見てもらう
などに注意して月1回程度観察してみると良いです。
見過ごしがないように注意して
上下の歯を合わせ、順番に上下の唇を指で引っ張ってみてください。
口を軽く開け、左右の頬をを順番に指で触ってみてください。
上や下の歯の歯ぐきの部分も触ってみてください。
少し口を大きく開けて、上顎も観察してみてください。この時に少し上を向くと見やすいです。
舌をガーゼなどで少し引っ張って、舌の表面・側面・裏側なども観察してください。
チェック項目
しこりはありませんか。
粘膜が赤くなったり白くなったり、他と違った状態になっていませんか。
口内炎はどうでしょう。2週間以上続くようなら近くの歯医者さんで診てもらってください。
白血病などで口腔内に症状が出る場合
口腔内の粘膜は代謝が激しいため、低栄養やビタミン不足でも症状が出ることがあります。ただ、重篤な疾患の初期症状として出る場合がありますので注意が必要です。
白血病
白血病は白血球などの血液の細胞を作っている骨髄にガンを生じたものです。血小板が減少し、皮膚や鼻血や歯ぐきからの出血が起こりやすくなります。歯ぐきが腫れやすくなり、また正常な白血球が減ってしまうことにより免疫力が弱くなり、口内炎が初期症状として起こることがあります。2週間以上続くような口内炎ができたり、極端に大きな口内炎・数の多い口内炎などができた場合は迷わずに近くの歯医者さんに診てもらってください。
ベーチェット病
ベーチェット病は、外陰部の潰瘍・結節性紅斑様皮疹・目のブドウ膜炎・そして口腔粘膜の再発性アフタ特徴とする、慢性の再発性の全身炎症疾患です。
頻度は
トルコのベーチェット先生が報告したのでこの名がついていますが、シルクロード病と呼ばれることもあり、地中海・中近東・中国・韓国・そして日本に多いです。日本では約2万人と言われています。
男女差は
以前は男性に多いと言われていましたが、最近の調査では、特に男女差はありません。ただ、男性の方が重症化しやすく、特に重症化すると失明する場合があるのでとても注意が必要です。発病年齢は男女とも20~40歳に多く30代がピークです。
原因は
原因は不明ですが、遺伝的な要因が考えられています。白血球の型がHLA-B51というタイプの人に多く出現しますが、免疫反応や炎症が大きく影響しています。もともと遺伝的な素因を持っている人が、細菌やウイルスに感染すると異常な免疫反応が炎症を引き起こす結果としてベーチェット病をおこすとされています。異常な免疫反応を起こす原因として口腔内細菌が大きく関与している事がわかっており、口腔内の衛生管理はこういった点からも非常に重要です。
口腔内の症状
口唇・頬の粘膜・舌・口蓋粘膜・歯ぐきなどに円形の境界明瞭な潰瘍(口内炎)ができます。ほぼ100%出現するとされ、初発症状として最も頻度の高い症状です。経過を通じて繰り返して起こることも特徴です。
目の症状が一番注意が必要です
この病気で最も注意しなければいけないのが目です。ほとんどの場合、両目が侵されブドウ膜炎という炎症を起します。障害が蓄積されると視力が徐々に低下し、ついには失明に至ることもあります。ただ幸いな事に。ステロイド薬の処方がよく効き、また、インフリキマブというTNF抗体が非常に効果を発揮して多くの患者さんで視力の改善が見られます。
予後
幸いな事に10年程度で軽度になって完治する場合も多くあります。治療は諦めずにじっくり取り組むことが大切です。日常生活でストレスの軽減や全身の休養に注意することも必要です。歯みがきなど口腔内の衛生管理もとても大切とされています。近くの歯医者さんで歯石を取ったり歯肉炎の治療をぜひしてもらってください。