血管の中で血が固まってしまうのが「血栓」です。また、血栓がはがれて流れ別の場所で詰まるのが梗塞です。どちらにしろ、血流が止まってしまい酸素が滞り壊死を起こします。脳で起これば脳梗塞、心臓の栄養血管で起これば心筋梗塞です。日本人の死因の第2位と第4位です。
心房細動や不整脈が原因で血液の流れが滞って起こる「赤色血栓」、動脈硬化で血管に傷がつき起こる「白色血栓」の二つのパターンがあり、防止薬も二種類あります。
抗凝固薬
心臓に不整脈や心房細動(心筋のけいれん)があると血液の流れに乱れを生じ、血流が滞ります。フィブリノーゲンという繊維の元が集まってしまい、フィブリンという綿ゴミのような塊ができてしまいます。この中に赤血球がからみつき成長したのが赤色血栓です。これが血流に乗って流れ、詰まると大事件になるのです。
15種の凝固因子が関与する複雑な反応で起こりますが、この因子の活性を抑え血液の異常凝固を防止するのが抗凝固薬です。
ワーファリン(ワルファリン)
血液凝固第II、VII、IX、X因子の生合成を抑える薬です。1954年に治療用の医薬品として認知され歴史の長い薬です。現在これ以外にも多くの抗凝固薬がありますが、まずこの薬と抜歯との関係を説明していきます。
ガイドラインの制定
2010年頃までは、歯を抜くときにワーファリンなどのいわゆる血液をサラサラにする薬を休薬するのが一般的でした。
しかしWahl先生(アメリカ1998年)の論文により、ワーファリンを中止した493例・542回の抜歯のうち、5例(約1%)で血栓塞栓症が起こり、うち4例(80%)が死亡したとの報告が一般に知られるようになり、歯の抜歯のために休薬することによるリスク(危険性)が認知されるようになりました。
このため歯科大学等専門家の先生たちによる委員会が組織され、ガイドラインが作成されました。(2015年に改訂 学術社刊)
ワーファリンは、継続内服のまま、抜歯するのが一般的です
専門家の意見では「肝疾患などの他の因子が無く、PT-INRが≦3.5であれば通常の抜歯は通用量のワーファリンを継続して行い、局所止血処置を適切に行えば対応可能である。」とされています。(あくまで一般論であり個々の患者さんの状態によって変わります。主治医の歯科医師とよく相談する事が大切です。)
PT-INRとは
PT-INR(prothrombin time-international normalized ratio):プロトロンビン時間 国際標準比。「血液の固まり(凝固)にくさ」を国際的に統一された基準で表現する検査がPT-INRで、正常を1と規定します。正常に比べて何倍凝固しにくくなっているかを表現する検査法がPT-INRです。
ワーファリンの欠点
ビタミンK拮抗薬です
プロトロンビンなど血液凝固因子の合成に欠かせないビタミンKの働きを阻害する薬です。このためビタミンKを多く含む納豆とクロレラ、それと青汁の飲食は避ける必要があります。納豆が食べられないのは辛いという人結構多いです。セント・ジョーンズ・ワートを含む健康食品も避けなければいけません。他にも注意が必要な薬剤がたくさんありますから、飲み合わせの際は十分な注意が必要です。
安全域が狭い薬です
いわゆるさじ加減が難しいのです。量が少ないと効果が悪い。ちょっと多すぎると逆に内出血の危険性が高まります。消化管・頭蓋内・腹腔内など見えないところでの出血は発見が遅れると大変危険な場合があります。ですので定期的に指標であるPT-INRの値を測定することが大切なのです。
いろいろな抗凝固薬が開発されています
NOAC(non-vitamin K antagonist oral anticoagulants)と呼ばれる抗凝固薬が続々と発売されています。代表的なものをちょっとだけ、
プラザキサ(ダビガトラン エテキシラート メタンスルホン酸塩)
直接トロンビン阻害薬です。ワルファリンよりも高い有効性を示し、また効きすぎによる出血リスクも低減しているとされています。ワルファリンのように、こまめに血液凝固能を検査したり用量調節に神経をそそぐ必要がありません。食物との相互作用の心配がほとんどなく、薬物間相互作用も比較的少ないです。でも実は頻回な血液凝固能検査が不要なのではなく、正確な薬効モニタリングの指標がないのです。また腎毒性との関係が指摘されてもいます。
抜歯に関しては内服継続下での施行可能であると考えられていますが、内服6時間以降、可能であれば12時間以降に行うことが進められています。しかし新しい薬なので科学的根拠を示す報告は少なく、今後のデータの蓄積が必要であるとされています。
イグザレルト(リバーロキサバン)
選択的直接作用型第Xa因子阻害剤です。ワーファリンよりも効果の発現が早く、同等以上の有効性が期待できます。効きすぎによる出血のリスクもワルファリンより低いことが示されている薬です。プラザキサ同様、正確な薬効モニタリングの指標がないです。また効きすぎに対処する中和剤もありません。
抜歯に関しての注意はプラザキサ同様とされていますが、特に腎機能障害を有する患者では注意が必要とされています。
エドキサバン(リクシアナ)も同様です。
抗血小板薬
血管の内面は本来つるつるです。でも動脈硬化や高脂血症などになると加齢の影響もあり、くたびれたホースの様に血管内壁が傷つきやすくなります。このキズに血小板という本来、止血のための成分が凝集して塊を作るのが白色血栓と呼ばれるものです。「白色血栓」が血流に乗って脳まで到達し、脳の血管を詰まらせてしまう「アテローム血栓性脳梗塞」は脳血管疾患の33%をしめます。
これを予防するためには、前記の抗凝固薬ではなく抗血小板薬が使われます。内頚動脈狭窄症のカテーテル手術を受け、ステントをいれた場合などにも血栓予防のため使われます。
バイアスピリン
代表的なそして歴史も長い薬です。ダイハード3でマクレーン刑事が「アスピリンくれ」って言ったシーンがあります。「アタマがイタイ」と「アスピリンがドイツの薬」(サイモンはドイツ人)というギャグですが、勝ち誇ったサイモンはノリでマクレーンにアスピリンを渡してしまいます。アスピリンの蓋に「国境の北 93S 104」と書いてあったことからアジトがばれてしまうわけです。もともとドイツのバイエル社が開発した解熱鎮痛剤です。うーん脱線 (*^_^*)(=^▽^=)
アスピリンを少量使用すれば、優れた抗血小板薬としての効果があり現在でも高い頻度で使用されています。
抗血小板薬内服中の抜歯は
医科主治医より原疾患が十分コントロールされていることが確認されていれば、抗血小板薬継続下での普通抜歯・難抜歯は可能であります。可能な抜歯本数についての明確な報告はないですが、少数の抜歯での重篤な術中出血・術後出血は報告されていません。しかしながら埋伏智歯の抜歯は術後の腫脹・皮下出血の頻度が高くなり、注意が必要であるとされています。
他の抗血小板薬
塩酸チクロピジン(パナルジン)、ジピリダモール(ペルサンチン・アンギナール)など多種類のものがあります。
とにかく患者さんごと、ケースバイケースです
ワーファリン服用患者さんの抜歯後の鎮痛剤として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用すると、出血性合併症が増加する。COXー2阻害薬も同様。アセトアミノフェンを使用した場合でもINR値が上昇する。
ごめんなさい。何を言っているのかわからないと思います。専門的にいろいろ考えなければいけないことがたくさんあるということだけ判っていただければ充分です。
われわれ浅草の歯科医師は内科の主治医の先生との連携を密にとっています。当歯科医院でなくても、浅草または台東歯科医師会の所属の先生であれば上記の薬についても精通しています。
浅草ではどこの歯科医院へ行っても現在服用している薬の事を根ほり詳しく尋ねられます。安全に治療を進めるためですのですのでご了承下さい。