心臓は、一日10万回も収縮・弛緩を繰り返しています。その心臓の動きを支えている心臓の筋肉「心筋」。その心筋に酸素や栄養分を送る血管が、心臓を取り囲む冠動脈です。
この大切な冠動脈に異常が生じる病気が、虚血性心疾患です。日本人の死因の3位を肺炎に明け渡したものの、死因、第4位です。
虚血性心疾患とは
狭心症と心筋梗塞は、冠動脈硬化などにより、血管内球が狭窄(きょうさく←狭くなること)または閉塞(へいそく←詰まること)により、心筋への血流が途絶えることで生じます。
冠動脈に血行障害が起こると、心臓を動かしている筋肉、心筋に酸素や栄養分が供給されません。すると心筋の動きが部分的に弱まったり、または動かなくなってしまいます。
このような、冠動脈の障害によって起きる病気を虚血性心疾患といい、おもに狭心症と心筋梗塞の2つがあげられます。
狭心症
狭心症とは、冠動脈が狭窄(きょうさく)し、血流が悪くなることで、心筋が一時的に酸素不足に陥る状態です。そのため、再び血液が正常に戻れば機能も回復します。だだし、放置すればいずれ心筋梗塞に以降する可能性が高い病気です。
心筋梗塞
心筋梗塞は、冠動脈に血栓が詰まり、血流が完全に途絶えてしまうため、酸素の供給も途絶え、心筋の組織が壊死してしまいます。心筋の細胞は一度死んでしまうと、血流が再開しても生き返りません。
心筋の受けるダメージが、狭心症に比べて格段に重症なのです。
狭心症
狭心症の症状
狭心症の主な症状は、「胸がしめつけられる」「胸が焼けつく」ような痛みや圧迫感です。ただし、痛みは胸だけにかぎりません。
狭心症発作の原因は心臓ですが、発作の痛みは胸に限らず、上半身のいたる所で感じる事があります。この痛みを「放散痛」といい、みぞおちや肩、腕、首、のど、あご、歯などに痛みを感じることがあります。狭心症の症状が胸以外に現れるとは思っていないため、腹痛や虫歯などと勘違いしてしまいがちです。この放散痛は必ず胸の痛みと一緒に起きるわけではなく、放散痛だけ起きる事もあるため注意が必要です。
われわれ歯科医院でも、歯の痛みといわれても、実はこんな病気まで疑っているのです。浅草の歯医者さんは勉強熱心なので、当然よく知っています。歯医者が、根ほり葉ほり尋ねるのはそれなりに理由があるのです。
痛む場所を特定しにくいのが狭心症の特徴ですが。これらの症状は数秒から数分、長くても15分以内で治まります。
労作性(ろうさせい)狭心症
進行した動脈硬化が原因になる事が多いです。安静時なら心筋の必要な血液量は足りていますが、運動などによって心臓の活動を上昇させる必要になった場合、心筋は酸素や栄養分を多く必要とするため、狭窄(きょうさく)した血管では充分な血液が供給できません。そのためふだんより激しい運動、動きが発作を誘発します。
肉体的だけでなく、精神的に興奮したり、強いストレスを受けた場合も同様なので、注意が必要です。
ただ、こうした発作は安静にすれば症状が治まります。
安静時狭窄症
動脈硬化があまり進行していなくても起こります。おもに冠動脈が「けいれん」して収縮するために、これを攣縮(れんしゅく)といいますが、血管が狭窄し、血流の供給が滞るのです。
安静時狭窄症の発作は、睡眠中など比較的安静にしているときにおこります。また秋から冬の寒くなった時期に起こりやすいのも特徴です。
原因は良く分かっていません。
攣縮(れんしゅく)が治まれば、発作も治まります。
この二つの狭心症を併せ持っている患者さんもよくみられます。
また発作の起こり方にも2つのタイプがあります。
安定狭窄症
発作の起きる時間帯や状況、発作の強さが一定しています。例えば、運動をして心臓に負担がかかると胸痛が現れ、休んで心臓を落ち着かせると症状がなくなるものです。
このタイプの人の血管内部を調べると、動脈硬化によって血管内腔が狭くなってはいても、プラーク(コレステロールなどの固まり)が崩れにくくなっていることが多くあります。このため、定期的な検査は必要ですが、急に心筋梗塞に移行する可能性は低いと考えられています。
不安定狭窄症
一方、不安定狭心症とは発作の回数や強さが一定しておらず、以前は問題なかった軽い運動や安静時に発作が起きたり、持続時間が長くなったりする狭心症です。このタイプの人の冠動脈内部を調べると、血管内腔が狭くなっている事に加えて、プラークが崩れやすい状態になっていたり、血栓ができやすかったり、血管のけいれんが起きやすくなっていることがあります。このため、近い将来に心筋梗塞へ進行する可能性が高く、特に注意が必要です。
心筋梗塞
冠動脈が動脈硬化で極端に狭くなって血流が悪くなり、その狭窄部位で血液が固まって血栓ができたり、他の場所でできた血栓がそこに詰まり、血流が完全に途絶えてしまう状態となることがあります。冠動脈が詰まってしまうと、その先の心筋には血液が流れないため、そこから先の心筋は、20分から2時間で壊死してしまいます。このように心臓への血流が途絶え、心筋が壊死していく状態を心筋梗塞といいます。
心臓には、壊死した部分の働きを他の部分の心筋が補う機能があります。しかし、壊死した部分が大きい場合は、心臓のポンプとしての働きが機能しなくなります。
心筋梗塞の発作が起きたら、一刻も早く集中治療を施すことが、生死を分けることになります。
心筋梗塞の症状
突然の激しい胸痛
冠動脈が詰まって血流が途絶えた瞬間から激しい胸痛発作に襲われ、心筋の壊死は始まっていきます。狭心症と症状は似ていますが、痛みのレベルはまったく違うといわれます。
死の恐怖を感じる強烈な痛み
心筋梗塞はなんの前ぶれもなく突然起こります。特に胸の真ん中、または左胸部に締めつけられるような痛みを感じます。どのように痛いかは感じ方は人それぞれですが、あまりの強烈な痛みから、
火箸で刺されたような痛み
石で胸が潰されたような痛み
胸の中をえぐられるような痛み
と例えられることがあります。
それに伴って大量の冷や汗を流し、吐き気や嘔吐(おうと)に襲われる事もあります。
発作がおさまっても、断続的に繰り返すけいこうがあります。
さらに心不全になれば、ショック症状、意識消失、死に至ります。
心筋梗塞の発作は持続時間が長いのも特徴
狭心症発作は安静にすると治まりますが、心筋梗塞は多くの場合で30分以上の強烈な痛みが続きます。心筋梗塞の症状は狭心症と似ているところがありますが、痛みが15分以上続くようであれば心筋梗塞を疑う必要があります。
時間が経つほど心臓は壊死していきます
心筋梗塞は冠動脈が詰まってしまっているため、冠動脈拡張薬のニトログリセリンを使用しても効果がありません。発作が始まるとすぐに心筋の壊死が始まります。胸痛は発症から数時間経過すると次第に治まってきますが、これは治ったわけではなく、神経も壊死して痛みがわからなくなったためです。
心筋の壊死範囲が拡がると、心臓のポンプ機能が低下し心不全になります。強い息切れや呼吸困難、血圧低下が起こり、死に至ります。
心筋梗塞は時間との闘いであり、対処が遅れると予後にも大きな影響を及ぼします。心筋梗塞の発作が起きたら、迷うことなくすぐに救急車です。
無痛性心筋梗塞に注意
上記のように、すさまじい症状を起こす心筋梗塞ですが、無症状の場合もあります。検診の心電図でたまたま心筋梗塞が発見されるということもあるのです。
このような心筋梗塞を無痛性心筋梗塞、または無症候性心筋梗塞といい、心筋梗塞患者の2~3割を占めているといわれています
痛みがないから軽症の心筋梗塞かというわけではありません。これは患者さんの痛みの感じ方に問題があるために起こります。無痛性心筋梗塞の患者の多くは糖尿病や高齢者であり、これらの患者さんは痛みを脳に伝達する神経が異常をきたしているために「胸痛」が感じられなくなっています。
よりたちが悪いかもしれません。心筋梗塞が発見された段階ではすでに重度の不整脈や心不全になっていることも少なくないのです。
定期健診が大切です
心筋梗塞を防ぐためには定期的に健康診断を受け、心電図などによって心臓の健康状態をチェックしておく事が大切です。そして、原因不明の吐き気やだるさ、しびれ、めまい、むかつきなどの違和感を感じた場合は、心臓病を疑って専門医の診察を受けるようにしましょう。
動脈硬化予防で、心臓を守る
虚血性心疾患を予防するには、動脈硬化を改善することが大切です。糖尿病や腎臓病などの病気をもつ人は、その治療も大切です。歯周病は、この二つの病気の大きな悪化因子です。歯周病も当然直していく必要があるのです。
動脈硬化の予防には、① 高血圧の改善 ② 高脂血症の改善 ③ 高コレステロールの改善 ④ 禁煙 ⑤ 適度な運動 です。
また、虚血性心疾患の発作の引き金となる、強いストレスや、急激な運動は避けるようにし、心にゆとりを持ってすごすことも必要です。
歯科と心筋梗塞の関係
歯周病菌が動脈硬化の原因の一つです
歯周病菌は、歯周ポケットの毛細血管から血管内に入り込みます。その歯周病菌の刺激により動脈硬化を誘導する物質がでてきて、血管内にアテローム性プラークと呼ばれる粥状の脂肪性沈着物が出来ることで血液の通り道がせばめられ、冠動脈を硬化させると言われています。このことはヒトの大動脈のアテローム性動脈硬化症と呼ばれる患者さんの病変の中から5~20%ぐらいの割合で歯周病菌の遺伝子が見つかっていることからも確認されています。
心内膜炎
心臓には血液の逆流を防ぐ弁がありますが、その弁膜付近に微生物が付着して増えると感染性心内膜炎になります。
心臓弁膜症など心臓の弁に障害がある人、人工弁を入れている人などでは、弁の周りの血液の流れがスムーズではなく滞っている場合があり、このような血液が停滞している部分では、血液中に入り込んだ細菌が心内膜に定着して増殖しやすく、定着増殖した細菌によって、細菌性心内膜炎が引き起こされる可能性が高くなります。
この細菌性心内膜炎で亡くなった方の心臓から、歯周病菌が検出されたことから、歯周病と細菌性心内膜炎が関係していると考えられています。
心内膜炎があると、血栓ができやすく、脳梗塞・心筋梗塞の原因にもなります。
心筋梗塞の発症後3ヶ月以内は歯科診療絶対的禁忌です
、心筋梗塞の発作を起した直後は、入院されていますので、外来で、歯科治療にいらっしゃる方はいません。
退院直後も3カ月以内は基本的に歯科処置はできません。お痛みなど緊急に治療が必要な場合は、歯科大学病院など全身管理が出来る医慮機関に御紹介いたします。
心筋梗塞は、発症後6ヵ月以内では再梗塞の可能性があるので、抜歯などの血圧を変動させる処置はできません。発症後6ヵ月を経過すると、副血行路が形成されて、梗塞をおこした範囲が縮小します。この時期になると、再梗塞の頻度が少なくなります。
歯科の治療が有る程度可能になるのは、発症後6ヵ月を経過してからです。歯科治療は、抜歯を含めて外科的処置をすることが多いので、内科の主治医に相談して、現在服用中の薬や身体の状態がわかる内容の紹介状を書いていただくことになります。
また、再発作をおさえるために、抗凝固薬や抗血小板薬をお飲みになる事も多くこの点にも注意が必要です。くわしくは抗血栓療法中の抜歯をお読み下さい。
病気同士仲良しです
歯の治療をしていて、歯周病だけ、全身は立派な健康体と言う人は見たことがありません。
「糖尿病が見つかったので、そちらの治療に専念したいので、歯の治療を中止したい」と、真顔でおっしゃる方もすくなくありません。身体は一つです。全部つながっています。