高齢者の定義
法令や制度などによってもまちまちで65・70・75才とすることが多いですが、「高齢者=65才以上」という区切りが一般的です。
若いころからの運動や食事などの生活習慣などで、同じ年齢でも「体力・気力・免疫力」などに大きな差がでます。
高齢者にはどのような特徴がある患者さんか
たとえば心臓の能力の一つ、最大心拍数は220-年齢が目安になります。20才の人は1分間に200回心臓を鼓動できますが、80才では140回が限界になります。
呼吸・循環・消化・排泄・感覚機能などすべての身体機能が低下していきます。
このためさまざまな身体的な変化がおこります
身長低下・体重減少・白髪・皮膚のしわや乾燥・筋肉減少や筋力の低下・栄養障害・疲労しやすいなどです。
このため日常生活にも支障をきたすことも多くみられます。体重減少、主観的疲労感、日常生活活動量の減少、身体能力の減弱、筋力の低下のうち、三つ以上当てはまる場合は高齢による衰弱(フレイル)とされ、介護支援が必要になる場合も多いです。
精神面でも変化がおこります
記憶に関しては、「新しいこと」を覚えることがだんだん難しくなります。さらに注意力や集中力の保持をすることも難しくなってきます。
頑固・保守的・疑いの感情を抱きやすくなる・健康への関心が異常に高まる傾向があるといわれますが、人それぞれです。
たとえ記憶力が衰えていても、理解力がそれを補ってくれることもあるため、高齢であっても新しいことを学び、優れた能力や創造性を発揮することは可能です。
杉田玄白が「蘭学事始」を完成させたのは83才のことです。水蓮で有名なモネ(享年83才)やピカソ(享年91才)などの画家も晩年まで創作活動をつづけています。
病気との関連性
呼吸や血液の循環などすべての内臓・免疫・体力も低下しているため、肺炎などの感染症にかかりやすく、また重症化しやすいです。
また、糖尿病・高血圧といった生活習慣病を患っていたり、ガンや脳梗塞の術後管理の必要な方も多いです。
たとえば糖尿病があると
血糖値が高すぎる状態が続くのが糖尿病ですが、数十年の長期にわたると、失明・腎臓障害など合併症が心配になります。血糖値が高いと血流障害をおこし、白血球の機能が低下するので歯周病の大きな原因になります。病気が別の病気を引き起こすのです。
具体的にどのような疾患が顕著であるのか
● 狭心症や心筋梗塞 • 塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう) • 高血圧 • 糖尿病 • 腎不全 • ガン • 摂食嚥下障害 • 脳血管障害 • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)● 前立腺肥大 • 喘息(ぜんそく)● 肺炎 • パーキンソン病 • 認知症 • 歯周病 など他にも沢山あります。
高齢者の口腔機能
高齢者の身体機能の低下や病気になりやすいのは、加齢によって起こる低栄養も関連しています。高齢者では歯周病や歯の残存数の減少、噛み合わせの悪さなどの咀嚼機能の低下と、舌の動きや飲み込み機能の低下などの嚥下機能の低下がみられるようになります。
食べる機能の低下は、食べる量の減少や栄養の偏りなどにつながり、低栄養の問題を生じます。筋肉量、体力の低下などにつながり、身体活動量の低下を招き、食欲の減退を起こして低栄養となります。つまり負の悪循環がおこり、寝たきりなど重度の生活障害への入り口になります。
口腔機能の低下を防ぐことが歯科医師の責務です。
高齢者の歯科疾患
歯の喪失
入れ歯の作成となりますが、ご高齢になると義歯を上手に使えなくなります。たとえばピアノを買っても練習しなければ美しい曲は弾けません。車の運転も高齢になると免許書を返納する方が多くなります。入れ歯もそれなりの訓練が必要です。
虫歯
歯ぐきがさがり、歯の根元の虫歯が多くなります。高齢になると歯の神経が萎縮して虫歯の痛みを感じなくなりやすいので、発見が遅れやすいので注意が必要です。
歯周病(歯肉炎)
唾液の減少や免疫力の低下、手の動きの悪さ(巧みな動きができなくなる)により歯みがきが下手になる。そして歯周ポケットが深化しているなど、歯周病が重症化してきます。このため急に膿んで熱を持ち腫れたり、歯がぐらぐらして抜けたり困ることが増えます。
歯周病など口腔が原因で全身の発熱が起こる場合もありますが、新型コロナとの鑑別など注意すべきことです。
機能面での注意
世間一般に認識があまりされていないので、今後啓蒙が必要ですが、口腔機能そのものの低下がみられるご高齢の方が多いです。
義歯そしてご自分の歯があっても、そこに力を加えて食べ物を粉砕し、それを食塊にして飲み込むのは、顎やノドの筋肉とこれをコントロールしている脳神経系です。
足があっても、筋力がなくなれば歩けず車いすとなってしまうのと、口腔機能も同じです。口腔機能の維持も大切です。
全身の健康維持
全身の機能が弱れば、口腔機能も低下します。栄養バランスよく適量の楽しい食事・規則正しい生活習慣・学びや趣味などのハリのある人生・社会貢献など社会とのつながりを持ってもらうことも大切です。
嚥下障害について
それでも、年齢的な変化はさけられません。年齢や病後の療養中の方などの食べる力が弱ってきた場合には、食べやすさ・おいしさ・栄養に配慮した介護食の提案も必要です。
飲み込む力が弱ってくると、食べ物や飲み物が肺に入ってしまい肺炎を起こしやすくなります。これを誤嚥性肺炎といいます。
液体は動きが早く誤嚥しやすいので、とろみをつけてあげると飲み込みやすくなります。その患者さんの状態に合わせて、トロミ剤を提案することも行います。
接食嚥下訓練
なにごともトレーニングです。食事の前に、手のひらで頬をゆっくりもみほぐしてあげると顎の筋肉や唾液腺の動きがよくなります。
高齢者の歯科治療の注意点
● 全身の病気を抱えている方が多いので、よく問診して、必要ならば内科主治医と相談する
たとえば高血圧の人に麻酔の注射をするとされに血圧が上がり危険
● 肝臓などの機能が落ちていることが多いので、薬の副作用が出やすい
● 削るときの水がノドにつまりやすい
● 骨粗鬆症の薬など歯科治療が制限されていることもある
など、若い人以上に注意が必要です。