PETとは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略です。
ブドウ糖にフッ素‐18〔18F〕という放射性同位元素を付けた検査薬(FDG)を体内に注射し、がん細胞が正常細胞に比べて、多くのブドウ糖を細胞内に取り込む性質を利用して、FDGが多く集まっている場所を調べ、がん細胞を見つけ出す方法です。
PET検査とは従来のCTやMRIなどの、形を見る検査とは異なり、細胞の活動状態を画像にして見る方法で、がんの有無や位置を調べる最先端の画像診断です。欧米では「がんが疑われたらまずはPETを(PETFirst)」という言葉があるほど、がんの早期発見に威力を発揮します。
PET/CT検査の利点
● レントゲンなどで確認が難しかったごく小さながんでも、PET検査では発見が可能になっています。
● 良性・悪性の区別、がんの進行度合い、がんの成長の仕方や性質(悪性度)が推定できます。
● 一度に、全身をくまなくチェックできます。
PET検査はがん細胞の特徴を利用します
がん細胞の特徴
身体の細胞のエネルギー源はブドウ糖です。(ちなみにぶどう糖が二つ結合したのが麦芽糖、数千個以上連なったものがデンプン)正常な細胞が秩序だってぶどう糖を取り込むのに対し、がん細胞は活動や細胞分裂が非常に活発なため、3~8倍のブドウ糖を取り込むという特徴があります。PET検査は、その特徴を利用してたくさんブドウ糖を取り込んでいる細胞を探し、がんを発見する方法です。
FDG
検査薬のFDGとは、グルコース(ブドウ糖)に目印となる「ポジトロン核種(=陽電子放出核種)」を合成した薬剤です。
正式名称は18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)といい、性質はブドウ糖とほぼ同じです。
サイクロトロンと呼ばれる装置で放射能を持った原子(ポジトロン核種)「18F(フッ素18)」をつくります。これをFDG合成装置で18F-FDGに合成します。18-Fの半減期(放射能が半分にまで減る時間)は約110分で、丸一日も経つとほとんど完全になくなってしまいます。薬剤としての寿命が大変短いため、PET検査施設で当日作り、できたてのものを検査に用いる必要があります。
検査の流れ
● 前日に激しい運動をすると、検査薬が筋肉に集まりやすいので、重度の運動は控えることが必要です。
● 絶食 検査の5~6時間前は食事ができません。水や緑茶などは飲めますが、ジュースやスポーツドリンクなど糖分を含む飲み物は禁止です。
● 注射 18F-FDGを静脈注射します。(5分ぐらい)
● 安静 1時間程度、安静に。
全身に薬剤が行き渡るまで1時間から2時間安静にします。通常、検査施設の個室に案内され、すごします。体を動かすと使った筋肉にくすりが集まってしまうので、安静に過ごす必要があるためです。読書やテレビによる眼筋への集積が報告、音楽鑑賞などにより視覚野や聴覚野の集積が増加するとの報告があり最近は、「ただひたすらじっとしていてね」という検査施設がほとんどです。
薬剤は尿路系から排出されるので、待つ間に、十分に水分を摂取する必要があります。たいていの施設でペットボトルの水を渡されます。(自分で持ってこいという所もあります。ケチくさ)
余分な薬剤が尿に排出されるので、撮影の前にトイレに。
● 撮影 台の上にあおむけになり、そのまま台ごとドーナツ状のPETスキャナーの中を通過しながら全身の断面を撮影します。(所要時間:30分程度)
必要に応じて(疑わしい、画像がはっきりしないなどの理由で)再度検査をする施設もあります。
またはじめから、2回撮影するとしている施設もあります。「ほとんどの腫瘍は、FDG注入後1時間よりも2時間後の方が、FDGの集積が増加する傾向があるため」との理由です。より正確な画像診断をするために、1回目の撮影に遅れて1時間後の撮影を実施するのです。検査時間は長くなりますが、より高い診断精度をめざせます。
● 待機 撮影終了後、再び、待機室で約1時間待ちます。また「検査後2時間程度は妊産婦の方や、乳幼児との接触はできるだけ避けてください。」と注意を受けることが多いです。体内に残っているFDGから放射線(γ線)が放出されますので、ご自身の身体が放射能からだすことになるからです。
検査後薬剤により発生した放射線が、完全に消えてなくなるまでは理論的に1日程度かかるので、この間は妊婦さんや乳幼児への接触はさけたほうが賢明です。
FDGは、尿として体外に排出されますので、トイレの後はよく手を洗うよう心がけましょう。
● よけいな話 この前、筆者がPETを受けた後に上記の説明を受けたときに、「家に生後3カ月の小犬がいるのですが、何時間したらだっこして良いですか?」と尋ねたら、担当の看護士さんとても困って先生に聞いてきますとかなり待たされました。先生からも明確な返答はありませんでした。マニュアルにないことをきいてみると相手がどのくらい理解して仕事しているかわかりますよ。
らくちんな検査です
胃カメラのように、おえっとなるのを我慢したり、大腸カメラのように、下剤を飲んだりする必要もなく、お財布以外、辛さの少ない検査です。その上全身をある程度チェックでき、他の検査では見過ごされるかもしれない初期のがんを発見してくれるので画期的な方法です。
放射線被ばくの問題
PET検査に用いるFDGからは放射線(γ線)が放出されますので、検査を受けることで、1回:約2~4msvを被ばくすることになります。実際には、CTを同時に撮影するので、PET+CTの場合、約16~19msvとなります。
PET検査とPET/CT検査との違い
かなり以前はPET検査とCT検査を別々に行い、コンピュータで画像を合成していましたが、PETとCTの機能を1台に兼ね備えた、PET/CT検査装置が主流です。PET/CTなら、PET検査とCT検査が一度で済みますし、PETの画像とCTの画像を、精緻に重ね合わせることができるので、より正確な診断が可能となります。
安全性は
地球上で普通に暮らしていれば、大地や宇宙からの放射線、体内にある放射性元素などによって被ばくしています。平均的な量である2.4 mSv(日本は2.1mSvといわれていましたが、東日本大震災による福島第一原発事故の影響は考慮されていません。今後は加算されることになります。)を一年間で浴びています。
検査などによる医療被ばくは、世界平均が0.6mSvであるのに対して、日本人は3.87msvと多いです。日本のCT保有数は100万人あたり107.2台であり、G7平均の25.2台、OECD関連国の25.4台と比べても断トツでトップです。医療被ばくが高いのもうなずけます。
400ミリシーベルト以下の放射線量では、現在のところ、がんや白血病になる人の割合が増えているという事実は確認されていません。より慎重に考えても100mSv以下であれば問題ないとされています。
ご自身は、放射線をほんの少し浴びるリスク(危険性)と早期にがんを発見できるメリット(利点)を天秤にかけて、一般的に、医学常識的にメリットが大きいと考えて検査するのです。
ただ乳幼児、胎児などは、細胞分裂が活発なため、妊婦さんや小さい子供さんにたいしての配慮がなされ、検査後1日程度は、濃厚な接触をしないように注意喚起がされているのです。
FDGそのものの副作用としては、0.03%の人に軽度のアレルギー反応が出現したとの報告がある程度で、重大な副作用は報告されていません。
mSv(ミリシーベルト)
射線量の人体への影響を表す単位です。放射線を受けることを「被ばく」といい、受けた放射線の量を「被ばく線量」といいます。シーベルトは、この被ばく線量の単位です。2,000 mSvの放射線を全身に浴びると5%の人が死亡し、4000mSv で半数の人が死亡すると言われます。200mSv以下の被曝では、急性の臨床的症状は認められないとされています。(mは1/1000の単位)
ちなみに、胃のバリウム検査で3.3mSv、胸部直接撮影で0.4mSv、胸部CT撮影で9.1mSv程度です。
PET検査の苦手な部位やケース
PET検査では、ブドウ糖に似た検査薬(FDG)が、集中して分布している場所を見ます。この薬は腎臓を経て尿に排泄されるので、腎臓や膀胱などにできたがんは、発見しづらいです。検査薬の集積が正常なものなのか、がんによるものなのか、見分けにくいからです。
またもともとブドウ糖の消費が多く、検査薬が集まりやすい脳や心臓や肝臓にできたがんも苦手です。
● 胃や食道などの消化器官粘膜に発生するごく早期のがん
● ごく小さながん細胞が、散らばって存在する場合
● 糖を必要としないがん細胞(まれですがあります)
● 炎症を起こしている部位
● 泌尿器科系(腎臓、尿道、膀胱)・脳・心臓・肝臓 (正常でもFDGが集まるため)
● 肝細胞がん、胆道がん、白血病など
PETは、がんの早期発見に有用で、数ミリのがんでも発見できる場合もありますが、PETでもごく微小のがんの場合、画像に写らない場合もあります。また部位によってはPETで見つけづらいがんもあるので、日本核医学会のガイドラインでは、PET検査と他の検査を組み合わせた総合検診を推奨しています。
糖尿病の方の検査も苦手です
血糖値が高い状態はつまり、血液中にたっぷりがん細胞のエサがある状態です。がん細胞は満腹状態にあり、検査薬(FDG)の取り込みをあまりしてくれません。このため、正確な診断ができなくなります。
糖尿病の患者様ではインスリン投与などにより血糖値を150ml/dL以下にコントロールした上で検査を受けることが望ましいとされています。それでFDGの筋肉への集積が亢進し、がん細胞への取り込みが低下するため、正確な診断ができにくいとされています。
費用が高いのも欠点です
他の検査でがんの疑いが見つかった人や、すでにがんの治療中の人が、精密検査や他部位への転移を調べる方法としてPET検査を受ける場合には、保険適用になることがあります。
がん検診としてのPET検査では、保険は適用されません。最近すこし安くなってはきていますが、10万円前後はかかります。
何歳から受けるべきか?間隔は?
100%これで安心という検査はありません。費用の問題や、被ばく量の問題もあります。しいて言えば、多くのがんの発症率が高まる50歳前後が、一つの目安ではないでしょうか。家系的にがんが多い人や、喫煙などがんの危険因子がある人は、(とにかく禁煙ですが)もう少し早い時期から受けてもいいと思います。
年に一度、PETの総合検診を受けるのが理想ですが、反対に、PETにも見つけづらいがんがあるので、PET検査だけを単独で受けつづけることは、あまりおすすめできません。胃カメラ、大腸カメラなども定期的に受けましょう。
がん以外の検査もできます
病原菌が体に入ってくると、白血球などの免疫細胞が活動して細菌を殺し、防護壁を作って毒素が体内に広がるのを防ぎます。これらの防衛反応が炎症です。免疫細胞の活動のエネルギーはがん細胞と同じブドウ糖ですから、肺炎などの炎症病巣にもFDGは集まります。関節炎や膵炎など原因が細菌ではない病気でもFDGは集まります。こういうFDG-PETの特徴を利用して、発熱が続くがいろいろ検査しても原因がわからない”不明熱”の患者さんにFDG-PETを行うと、他の検査ではわからなかった原因病巣が診断できることがあります。
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