放射線とは
一般の歯の治療で問題になるのはエックス線です。アルファ線など粒子放射線もあるのですが、話が難しくなるのでパスで。歯医者の治療に関係する点のみのお話にします。
エックス線とは
エックス線は、光の仲間です。光は電場と磁場の波なのですが、この波の長さのことを波長といいます。
親愛なるあなた様が今この文章を読めているのも、目の網膜の視覚細胞が光を感じるからです。光の波長が800nm(ナノメートルと読みます、十億分の一メートル)の光は赤く見え、波長が短くなると橙・黄・緑・青・藍・紫となり400nmより短くなると、目に見えなくなります。見える範囲を可視光線といいますが、赤より波長が大きいのを赤外線、紫より波長が短いのが紫外線と呼びます。波長が短くなるとエネルギーが高くなり、透過性が高くなります。( ※2 )
さらにエックス線は10nmより短く透過性が強くなります。
エックス線で骨折などがわかるのは
エックス線が物質に入ると、一部のエックス線は物質中の電子に吸収されて減ってしまいます。これを光電効果というのですが、内側の電子がより原子核に近くなる重い元素の方が起きやすくなります。
人間の身体は大部分が水素,酸素,炭素などの軽い元素でできていますが、骨はカルシウムやリンなど、より重い元素が豊富に含まれていて光電効果を起こしやすくなっています。そのため骨では透過するエックス線が少なくなり、濃淡の差を生じ写るのです。
放射線の危険性
一度に4000ミリシーベルト程度を全身に受けると、受けた人の半数が死亡します。 放射線のエネルギーにより、身体の細胞の酵素が破壊され機能を維持できなくなるからです。また新らしい細胞を新生することも不可能になってしまうのです。皮膚や腸、免疫細胞が特に障害を受けます。これを確定的影響と呼びますが、しきい値があります。
500mSv以上で骨髄、造血能低下
1000mSv以上で悪心・嘔吐
妊娠女性が100msV以上浴びると胎児に奇形、重度精神発達遅滞が1-5%(集団の中で感受性の高い人々)に症状の出る線量。とされています。
しきい値とはこれ以下であれば、影響はでないということです。ちなみにこのような高線量を歯医者の治療で浴びることはありません。
もうひとつが確率的影響。こちらはしきい値はありません。(あるという学説もあります ※5)放射線が、DNA遺伝子にあたると遺伝子が壊れることがあります。これが上手に修復されずにガンが発生するとの考え方です。つまり逆宝くじです。買わなければ絶対あたりません。1枚でなく、100枚買えば当選確率は100倍です。エックス線などの放射線も同じです。しかし歯科のレントゲン検査による確率的影響は、このあとお話しますが限りなく0に近いです。ちなみに宝くじのロト7で4億円当たる確立は約1029万分の1 です。
シーベルトとは
スウェーデンの物理学者ロルフ=シーベルトに由来する「記号Sv」で表される単位です。放射線の種類によって人体への影響が異なることを配慮した数値です。通常千分の一を表すミリ(m)をつけて使います。(※4)
日常生活でも放射線を浴びます
意外ですが、自然界からも放射線を浴びています。宇宙から降り注ぐ放射線が約0.4mSv、大地に含まれるウランなどの自然放射性物質から約0.5mSv、飲食物(カリウムの放射性同位体や炭素の放射性同位体など)から約0.3mSv、空気中に存在するラドンにより約1.2mSv、合計すると年間約2.4mSvを被ばくしているとされています。
飛行機に乗ると、増えます
宇宙線は大気にぶつかると拡散して弱まります。航空機は地上1万m以上を飛ぶので大気によるシールドが弱くなり、地上よりも多くの宇宙線による放射線を浴びることになります。空気が遮蔽が減るので1,500m進むごとに2倍になり、1万メートルでは地上の100倍です。
1時間あたり0.005mSv被曝することになります。
歯医者で使うエックス線が安全と考える根拠
浅草の歯医者さんをはじめ、一般的な歯科医院で使用する、エックス線装置は非常に低線量です。歯科で使うパノラマ(大きなレントゲン写真)0.02-0.03mSv 口内法(小さなレントゲン写真)0.01-0.03mSv です。
歯科で使用するレントゲンは、このように人が自然界で1年間に受ける照射量のおよそ40~100分の1と極めて少なく、そのリスク(危険性)に比べて歯の内部の状態や、歯を支えている骨の状態など、得られる情報が格段に大きく有益だからです。
レントゲン写真を撮影時の防護エプロン
被曝量削減のために鉛の防護エプロンを使用しますと、肺、胃、腸、精巣、卵巣など放射線に過敏な部位への被爆をほぼゼロにすることができます。
防護エプロン以外にも、レントゲン室の壁やドアの中には鉛が使用されており、外部に放射線が漏れないように設計されています。エックス線室の窓ガラスも鉛の入った特殊なガラスです(結構値段高いです ァハハ・・('∀')
鉛エプロンは不要ともいわれます
鉛のエプロンを用いることで画像が乱される(エプロンの障害陰影が画像上に重なる)ことがあるので、鉛のエプロンの着用は必須ではないと言われています。
歯科医院ではエックス線を照射する範囲をぐっと狭め、直径7cm程度の出口からエックス線を出し、被ばくする体の部分の体積を減らすようにしています。このため身体の他の部分にはもともとエックス線が当たりにくいように配慮されています。
このため通常の撮影環境では着用しなくても、体幹部の被ばくは着用した場合と有意差がないと言われている(Guidelines on Radiology Standard for Primary Dental Care、1994年)ので、鉛のエプロンは念のために近いです。もし今通院中の浅草の歯医者さんで鉛エプロンをかけてくれなくても心配いりません。
疫学的にも問題はないとされています
広島・長崎の被ばく者の調査をはじめその他の調査でも、人間では200ミリシーベルト以下というような低い線量では、ガンによる死亡者が余計に発生したという明確な結果は出ていません。
歯科の被ばくでどの程度のガンが発生するかを検討した結果、1年間に日本国民の1人以下がガン病変を生じていると考えられるという推定があります。これは年間1億枚程度の歯科用撮影(小さなフイルムで歯の撮影を行う)と1000万枚のパノラマ撮影による総計からの推定です。
少量の放射線であれば体に有効であるという考えもあります
放射線ホルメシス(放射線のホルモン的作用)という考え方です。少量の放射線は体に害にならずに逆に益になるという考え方であり、各種の証拠も出されつつありますが、現在確証があるわけではありません。
約100,000人の原爆生存者のうち、少量のまたは少なめの被ばくをした2/3の人々ではガン死亡率が放射線を浴びなかった人より低くなった。いう報告もあります。
紫外線紫外線ホルミシス
紫外線は分かり易いです!
紫外線を多量に浴びると日焼け、肌荒れなどの皮膚トラブル、ガンの原因にもなります。でも適量であれば、皮膚のコレステロールからビタミンDを合成してくれます。身体の外からとりいれなければいけないのがビタミンですが、ビタミンDは紫外線により皮膚でも合成できるのです。
抗酸化力の向上
微量の被曝を受けることで抗酸化酵素(SOD)の増加、活性化を促進させます。 SODは老化の原因となる活性酸素を除去する効果を持っています。
ワクチン効果
予防接種と同じです。弱い放射線を浴びることによって、強い放射線に対する抵抗力をつけるのです。
がん発生の抑制
細胞の免疫力が高まるため、細胞の癌化を抑制できる。 また癌p53抑制遺伝子を活性化させます。
ただ現在検証途中であり、明確な結論は出ていません。
妊娠中に、歯科用エックス線写真撮影しても大丈夫?
今までお話したように、歯科医院のエックス線写真は顎の厚みが小さく少ない線量で済むのと照射方向が顎ですので、お腹方向に向かう放射線はほとんどありません。
子宮などの生殖腺の被曝線量は、顎全体を写すパノラマエックス線写真撮影で0.00008mSv、部分的に取る小さなデンタルフイルムによる撮影では、0.00003mSvと限りなくゼロに近い数字になります。問題のない値といって差し支えない数値です。国際放射線防護委員会でも過剰な防護の必要はないとされています。
確かにレントゲン撮影と聞くと、放射線→被爆→胎児への影響と連想してしまいます。浅草の歯医者さんでもいろいろな意見が出ます。妊婦さんは生まれてくる赤ちゃんに対する責任を感じるため、必要以上に過敏になっている方も多くいらっしゃいます。安全だとわかっていても、気持ち的に受け入れられない方も確かにいらっしゃいます。学問的にはエックス線撮影は歯科診療の際、的確な診断を行うために必要なものですし、胎児に対する影響はほぼゼロです。でも気持ち的に受け入れられないのもよくわかります。
歯医者はみんな放射線のスペシャリストでもあります。個別の治療によってもレントゲン撮影の必要性は変わってきます。納得いくまで近くの歯医者さんとご相談ください。
※の説明
※ 1 放射線(ほうしゃせん)とは、高い運動エネルギーをもって流れる物質粒子(アルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線など[1]の粒子放射線)と高エネルギーの電磁波(ガンマ線とX線のような電磁放射線)の総称です。電離を起こすエネルギーの高いものを電離放射線、そうでないものを非電離放射線とに分けることもありますが、一般に「放射線」は、高エネルギーの電離放射線の方を指していることが多いです。
※ 2 光子の持つエネルギーEがプランク定数hを比例定数として振動数νに比例することは実験的に分かっていますが、それが何故なのかは実はまだよくわかっていません。E=hν 振動数νと波長Λは真空中の光速cと次の関係があります。ν=c/λ 従って、E=hc/λ プランク定数hと真空中の光速cは定数ですから,「波長が短い方が光子のエネルギーが高い」と言えます。ただしこれは光子の数が同じである時です。
※ 3 エックス線は、波長が1pm – 10nm程度の電磁波です。ちなみにピコメートル(Picometre pm)は、一兆分の一メートル。ガンマ線とエックス線は発生の仕方で区別します。
ガンマ線は、コバルト60やセシウム137などの放射性物質の自然崩壊により発生する。
エックス線はガンマ線と同じ特徴を持っているが、発生の仕方が異なります。
高速の電子が金属にぶつかって停止すると、電磁波の形でエネルギーが発生する。
この現象はドイツのヴィルヘルム・レントゲン博士によって1895年に初めて発見されました。レントゲン博士はこの不思議な放射線を数学の“未知数”を表す「X」にちなみ、エックス線と命名しました。
電子の励起準位の移動によりでてくるのがエックス線です。例えば対陰極として銅、モリブデン、タングステンなどの標的に、加速した電子ビーム(30 keV程度)を当てると、原子の1s軌道の電子を弾き飛ばします。すると空になった1s軌道に、より外側の軌道(2p、3p軌道など)から電子が遷移してくる。この遷移によって放出される電磁波がエックス線(特性X線)です。
これに対し原子核内のエネルギー準位の遷移を起源とするものをガンマ線と呼びます。波長の重なる部分がありますが、ガンマ線はより短い波長です。
※ 4 線量当量の単位。ジュール/キログラム(J/kg)に固有の名称です。記号Svで表され、線量当量は、一般公衆および放射線取扱作業者の放射線障害防止を目的とする場合に限って用いられる放射線被曝量を表す量であり、線量当量=吸収線量×線質係数×修飾係数として定義されます。線質係数は、X線,γ線に対しては1であるが、放射線障害の危険性の高い中性子線,α線などに対しては、1より大きい数値(放射線の種類,エネルギーによって1~20)が決められています。
※ 5 確率的影響のしきい値の有無については諸説あって今のところはっきりしていませんが、放射線から人を守るための基準、つまり放射線防護の基準を検討している国際放射線防護委員会(ICRP) では、人が受ける放射線の線量はできるだけ少なくしておく方がより安全であるという立場から、現在のところはしきい値がないとして、つまりどんなに低い線量でもそれなりの影響があると仮定して放射線防護の基準を決めています。